溺愛旦那様と甘くて危険な新婚生活を
あまりの事に、花霞は呆然としたまま、言葉を吐き出した。口元だけが動いていたが、体はふらふらして力が入らなくなってきていた。
「当たり前だろ。おまえと付き合った時に使ったお金を返してもらったんだよ。通帳の番号は何となくわかってたし、旅行に行こうって2人で貯めてたのも、別に使ってもいいだろ。」
「よくないよ………私のお金だよ?あの通帳は私の全財産なんだよ?」
「んだよっ!うっせーな。金ないなら働けばいいだろっ!」
「玲、お願い………どうしてそんな事しちゃったの!?玲っっ………!」
「うるせーなっ!さっさと出ていけっ。もう、おまえに名前も呼ばれたくなんだよっ!」
玲は細身の体だったけれど、やはり大人の男だ。両手で力いっぱい体を押されてしまえば、花霞の体は倒れてしまう。彼に押された体は、開いていたドアを出て外の廊下へ出てしまった。
「じゃーな。もう会うこともないだろうけど。」
花霞の体を蹴り、ドアが閉まるようになると、ニヤリと笑いながら玲はそう言い乱暴にバタンッとドアを閉めた。
そのマンションの廊下は外に面しており雨がパラパラと体に降ってきた。
「…………いたっ…………。」
ノロノロの体を起こそうとすると、押し飛ばされた時に体をぶつけ、腰や足、そして手首にに痛みが走った。
それでも、こんな所で倒れているわけにもいかずに、花霞は立ち上がり、ゆっくりと玲が居る部屋のドアを見つめた。
広くもない、少し古く安いアパートの3階の1室。
それでも安月給の2人でやりくりしながら暮らしてきた。贅沢は時々しか出来なかったけれど、それでも初めて出来た彼氏と過ごす日々はとても幸せだった。
そのはずだったのに………。
目の前の家は、一瞬にして自分の帰る場所ではなくなってしまった。
カンカンッとヒールを鳴らして階段を降りる。その足取りはとても重い。
もしかしたら、彼が追いかけて来てくれるかもしれない。
そんな甘い考えが、心の中にあるのかもしれない。