【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。
「あ、あの……新しい紙貰って再提出したいから、そのプリント貰っていい?」


廊下に吹き込んだ風は、緩くウェーブした栗色の髪をふわりと揺らす。


柔らかそうな髪、頬、唇。そういう全部から、俺は目をそらした。


「紙びしょぬれだし、触んない方がいいよ」


「えっと、大丈夫……。次の授業遅れちゃうし……灰野くんは他のを提出しに行って?」


藍田さんの不安げな上目遣い。
これを平気で受け取れる男子がいるとすれば、心底尊敬するよ。


「わかった」



職員室まで走る。走る。心臓が動く。


ドキドキうるさいのは、走っているからで。


絶対に、

" 藍田胡桃 "のせいなんかじゃ、ない。


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