【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。
「藍田さんはいつから伊吹のこと好きなの?」
「……わかんない」
「付き合ってたの中1だっけ?別れてもずっと好きだったんじゃないの?」
ずっと……。
ずっと、気になってはいた。
同じクラスが続いた中2の時期は一気にモテ始めた灰野くんにしか目がいかなかったし、高一で藤堂さんと付き合った彼を見た時は息が止まった。
でも。
ずっと、今と同じように好きだったのか。
そう考えると、違う。
あたしが抱えていたあの頃の感情は、ほとんど嫉妬だけだった。
灰野くんはあたしには話さないのに、他の女子とは平気で喋る。
意味が解らなかった。
灰野くんなんて大嫌い。
一度も口にしたことはないけど、この言葉を何回も心の中で思ってた。
「ずっとじゃないよ」
「まじか。じゃあ引きずってたのは……。藍田さんは違うんだ。だったらいつから好きになったの?」
「それは……」
高2で、クラスが同じになって……。
そうだ。灰野くんが彗のついでみたいに隣にいたあたしに「おはよう」って言ってくれて、あたしはびっくりしながら「おはよう」って返した。
ねちっこく心を占領していた嫉妬や嫌悪感が魔法みたいに、憧れに変わる。
そしたらもう止まんなくなった。
あたしを嫌う灰野くんの目も、そっけない態度も、全部に触れたくなった。
『マゾじゃん』ってナギちゃんは笑ってたなぁ。
「好きになったのは、結構最近なのかなぁ」
「へぇ……意外となぁ」
山本君がらしくなく声のトーンを落とした。でもすぐにパッと表情に花を咲かせる。
「伊吹が花チャンと付き合ってた時に一回だけ言ってたんだけど。付き合ってたときの藍田さんと花チャンを比べちゃったんだって」
「比べた……」
ぱーっと頭の中に広がる、笑い合う藤堂さんと灰野くんの自然体。
「比べるって、どういうこと?」
「どういう意味か考えてみてよ?じゃー俺、職員室いってきまーす」
空っぽの教室で、遅れて口が動く。
「いってらっしゃい……」