【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。
だけど灰野くんは答えてなんかくれない。


「あたしは……また他人になるのは嫌だよ」


一緒に勉強して、トランプして、散歩して、隠れて、プール掃除して。

全部夢みたいに楽しかったのはあたしだけ?



”逃げ出したくなる”くらい、嫌だったの?



灰野くんは思い切り吸った空気を長く吐き出した。


「はぁ―――……」


逃がさんとばかりに強く掴むあたしの手を、灰野くんはちらりと見てから言った。



「藍田さんって、俺のこと好きだよね?」


え……?

なんで知って……山本君が言ったの?

丸い目を山本君にむけると、

「いやいやいや、俺言ってない!」


手をぶんぶんと振りながら、山本君が叫んだ。


「じゃあ……なんで、知ってるの」


それがほとんど告白だって気付いてから、顔が熱くなっていく。


「気づかないふりっていうのもあるんだよ」


「……え」


灰野くんは鈍感なんだと思っていたのに、本当の鈍感は、もしかしてあたし……?


気付いていたなんて。


そっかぁ……。


やっと”逃げ出したい”の意味が分かった。


「……あたしの気持ちが重かったんだね」


大好きでどうしようもない気持ちをいつの間にか、灰野くん本人にぶつけすぎてたんだ。


だから灰野くんは、あたしから逃げたい。



じゃあもうほんとうに、邪魔ものじゃん。




「……ごめんなさい。もう近づかない」



あたしは灰野くんの腕から手を離して廊下を歩いて行く。


「伊吹、いいの?」


慌てる、山本君の声は聞こえたけど……灰野くんの声なんて、一個も聞こえなかった。



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