【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。
傘を叩く雨粒の音に混ざって、後ろから聞こえてくる二人の会話。


「仕方ないから駅までは入れやるけど、そこからは男らしくずぶ濡れで帰れ」


「そういうのは山本の方が似合うだろ」


「うん。伊吹は風邪ひきそう」


「うざ」


ふたりの歩幅はあたし何かよりずっと大きいみたいで、すぐに追い抜かれた。


灰野くん肩が濡れている。


……風邪ひいちゃうよ。



「……山本君!!」


「あれ……藍田さん。てか俺?何?」


「あの……」


傘を首と肩で挟みながら、背負っていたリュックを片手に持つ。ごそごそと中身を漁って、一番奥。


あった。


「この傘……女の子っぽいかもしれないけど、山本君よかったら使って」


「……俺?あぁ……。うん、ありがと」



あたしの手から山本君の手へ傘が渡った。


灰野くんの顔は傘に隠れて見えない。


「じゃあばいばい!」


あたしは二人を横切って、なんだか苦しくなって。


思いっきり走った。


スカートを翻して走る。足元をパシャパシャと水が跳ねて、それでもまだ走る。


体にはりつく雨なんか全然気にならない。


苦しい……。
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