【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。
俺に詰め寄られる藍田さんの目は宙をさまよって泳いで……で、なに?


ナギに助けを乞うわけ?


……いいから、俺って答えてよ。


そしたら、胸がすくじゃん。

こんなにもやもやしなくてすむんだよ。


「……」


沈黙は長くて。でも藍田さんはこんなに近くにいる俺を見ない。


それが答え?


ほんと、むかつくね。


こんなバカみたいなこと、藍田さんに聞いてる自分自身に、めちゃくちゃ腹が立つよ。



キスする気なんて勿論ない。


俺は、藍田さんなんか好きじゃない。大嫌いだ。



「伊吹」


俺の名を呼ぶ声に、目を向けると、花がいた。


ずっと見てたよ、って。
呆れたような、悲しいような目は、俺を一気に冷静にさせる。


「すきじゃないなら、そういうことはやめた方がいい。自分も相手も傷つけるよ」


花は俺にない賢い頭で「その子から離れてあげて」と念を押す。


あっさり身を引いた俺を、藍田さんは呆然と見ていた。



「ごめんね、藍田さん。忘れて」



我ながら無責任な言葉だな。


花の後ろに続くように、雑草を踏みしめながら歩いていく。



花のすっと伸びた背筋。
サラサラと左右に揺れる黒い髪が指を通る感触を思い出して、ふっと笑う。


好きじゃないなら、だめだよ。


それを花に言われたら、俺はなんも言えない。


……好きじゃねーよ、藍田さんのことなんか。
< 46 / 400 >

この作品をシェア

pagetop