月夜に花が咲く頃に
代わりに私の身体にまわった腕の力が、少しだけ強くなった。


「大丈夫だよ」


紅雅の背中に腕を回して、ぽんぽん、と背中を叩くと、紅雅は身体を離して私を見る。


「私だって、特訓参加するし、できることがあるならやるからさ。紅雅にも、暁のみんなにも、絶対迷惑かけないって約束する。自分の身は、自分で守るよ」


Vサインを出して笑ってそう言うと、なぜか紅雅の口からは盛大なため息が出た。


「ん?どうしたの?」


体調でも悪くなったのかと紅雅の顔をのぞき込むと、さっきよりも断然強い力でぎゅむっ、と顔を紅雅の胸に押し当てられる。


「んぐっ」


いったいなあもう!


何すんだ、と言おうとしたけど、口が塞がれて何も言えない。


「お前はほんとに分かってねえな」


頭上から罵倒が聞こえる。


むかっとして自分の身体と紅雅の身体の間に手を滑り込ませて紅雅を押し返した。


「なんなのさもう!」


「お前が悪い」


「はあ!?」


やっぱりこいつは理解不能な男だ。


私何も悪いことしてないのに、と口を膨らませて紅雅を睨むと、紅雅は笑って私の頬で遊び始めた。


絶対こいつ私のこと馬鹿にしてる。


絶対馬鹿にしてる!


「お前はこうやって俺の手の届く範囲にいればいいんだよ」


楽しそうにニヤニヤ笑う紅雅。


いちいち言動がむかつく奴だな。


この野郎、とさらに顔に怒りを滲ませたけど、それを知ってか知らずか紅雅が私の顔で遊ぶのをやめることはなく、結局その夜は紅雅のおもちゃにされて終わった。


< 102 / 225 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop