月夜に花が咲く頃に
結局接客の方で決定してしまった。


ああ、人前に出るの好きじゃないのに。


なんか最近、押し切られることが多くないか。


ちょっとは私の話も聞いてほしい。


でも、とりあえず。


高校初めての文化祭。


少しだけ、楽しみかも。


これから忙しくなるであろう文化祭の準備期間とか、文化祭当日のことを想像して、ほんのちょっとだけ、頬が緩んでしまった。


そんな私を、翼含めるクラスメイトがほんわかした温かい目で見ていたことを、私は知らない。










「へえ、雫ちゃん達のクラス、コスプレ喫茶になったんだ」


楽しみ、と明原が口笛を吹く。


「雫ちゃんは何のコスプレすんの?」


「まだ決まってないよ。なんか、いろんなの試したいって、今日放課後採寸測られたけど」


「今日の京極さん、引っ張りだこだったね」


くすくすと奥山がおかしそうに笑う。


部屋の奥で雑誌を読んでいる鬼神も、雑誌のせいで顔は見えなかったけど、肩が震えていた。


今日の放課後、私が帰ろうとした矢先、一斉にクラスの女の子に囲まれて。


衣装を作るから、採寸させてと目をギラギラさせてお願いしてきて。


断れるはずもなく。


そのままずるずると空き教室に引っ張られ。


やっと教室に帰って来れたと思ったら。


今度は男の子達に囲まれ。


どの衣装がいいだとか、何だとか。


訳の分からない討論に参加させられ。


放心状態だった私を、鬼神がその輪から引っ張り出して、ようやく抜け出して暁の倉庫にやってきたのだ。




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