偽装ウエディング~離婚前夜ですが、抱いて下さい。身ごもりましたが、この子は一人で育てます。~
お手洗いを出ると、丁度隣の男性用のお手洗いから一人の若い男性が出て来た。
少しウェーブのかかった黒髪に整った顔立ち、銀色のリムレスフレームの眼鏡、切れ長の奥二重の怜悧な黒い瞳。
高めのコージンラインのダークブラウンの細身のスーツは上質でエレガントな雰囲気を漂わし、長身な彼には似合っていた。
先月の経済ジャーナルの表紙を飾っていた『キングダイニング』の副社長に就いた玲人君その人だった。
「玲人君?」
彼は足を止めて、細い眉を歪ませ、怪訝そうに見る。
「私よ、私」
「貴方は誰ですか?初対面でいきなり名前で呼ぶなんて、不躾ですよ」
昔と変わらない言葉遣い。
変わったのは容姿と声のトーン。
「塩崎杏花です」
「塩崎??もしかして、「熱海グランドホテル」の」
「そうです、そう・・・その杏花です。久しぶり。玲人君」