華道家元の溺甘レッスン
1話

〇朝日が差し込む高級ホテルの一室

ベッドの上に横たわる望月凡奈。
目を覚ますと、知らない場所。
はっとして起き上がると、なにも着ていない。
そして、隣には端正な顔の男性が眠っている。

凡奈(ど…どうしてこんなことに…!!?)

場面転換

〇青山にあるデザイン会社のオフィス

凡奈「S社のポップアップショップのレイアウトできました。」
上司「おお、じゃあ早速クライアントにアポとって現場に調整に行ってくれ」

凡奈(憧れのこの会社に入ってもう7年。
  毎日忙しくしてて、充実してるって自分では満足してるけど…。)

スマホを見る凡奈。
友人の仁藤里香がラインを送ってきている。

里香『はろー!今日飲みに行かない?最近忙しそうだから、ちょっと景気づけ!』
凡奈『いいよー。じゃあ20時にいつもの居酒屋集合で!』

場面転換

〇居酒屋

里香「おつかれー!どう?最近。」
凡奈「おつかれ。やっと最近自分がメインの担当につけるようになったの。
  これからって感じだよ。」
里香「仕事頑張ってるねー。
  ていうか、どう?
  女子っぽい話題の方はないの?」
凡奈「うーん…結構枯れてるかも…。」
里香「そうじゃないかと思った!
  専門時代は一緒に化粧品とか買いに行ってたけど、
  あんた、最近自分磨きしてないんじゃない?」

凡奈、ぎくり。

凡奈(あの頃と同じアイシャドウ使ってるなんて、言えない…。)

里香「あたしたちも、もうアラサーなんだからさ…。
  がんばろ、自分磨き!」
凡奈「そうだね…。」

凡奈(とはいえ、仕事以上のモチベーションがなぁ…。)


〇朝・会社

凡奈「いけばなインスタレーション?」
上司「そう。今度のP社のプロモーション、
  新宿の百貨店にいけばなインスタレーションを展示してみてはどうかっていう
  クライアントからの提案なんだ。」
凡奈「作家さん探します?」
上司「ああ。
  望月の方でいい作家探してみてくれないか。」
凡奈「はい、わかりました。」

凡奈(とはいえ、いけばなのこと全然わからない…。)
  (そういえば、近くに華道教室あったな。
  ちょっと見学に行ってみようかな。)


〇いけばな教室

凡奈(わ…結構人いるなあ。
  人気の教室なのかな?)

女性「体験の方ですか?
  こちらでお花を選んでありますので、
  少し待っていてくださいね。」

凡奈(ひー、なんだか緊張するなあ。)

たくさんの人がそれぞれいけているのを見ながら、まごまごしている凡奈。
そこへ、男性がやってくる。

男性「こんにちは。
 初めての方ですか?」
凡奈「はい、あの、なにをしたらいいのかわからなくて…。」
男性「緊張しなくてもいいんですよ。
  花は楽しくいけるのが一番ですから。」

凡奈、少しほっとする。
男性を改めてみると、歳の近そうな、とても端正なルックスの男性であることに気付く。

凡奈「あの、あなたはここの先生なんですか?」

周囲の人々がぎょっとした顔で凡奈を見る。
見られていることには気づくが、なぜ見られているのかはわからない凡奈。

柾「はい、柾っていいます。どうぞよろしくお願いいたしますね。」

凡奈、柾が名乗るのを、正木という苗字だと思い込む。

凡奈「私、望月凡奈っていいます。
  正木さん、話しやすそうな先生でよかったです!」
柾「ありがとうございます。」

にっこりと微笑む柾。
少しきゅんとする凡奈。

はりきって花をいけるが、まったくもって見られたものではないものが出来上がる。

凡奈「私…才能無いんでしょうか…。」
柾「そんなことないですよ、今日はいけばなが楽しいって思ってくださったら、
  それだけで充分です。
  うまくいけようなんて思わなくてもいいんですよ。」

凡奈(優しい人だなあ…。
  こんな人が身近にいたら、私の女子力も回復するんだろうか…。)

凡奈「正木さん、今日これから飲みに行きませんか?」
柾「え?」

驚く柾。
そして、もっと驚いて凍り付く周囲。

凡奈「驚かせてしまってすみません、急でしたよね…!」
柾「いえ、構いませんよ。」
 「行きましょうか、飲みに。」


〇以前里香と一緒に来た居酒屋

お酒が進み、楽しくなってきている凡奈。

凡奈「専門を出て、今の会社で頑張れてるのが本当に嬉しくて…。」
柾「子どもの頃からの夢を叶えたんですね。
 すごいです。」
凡奈「でも、最近仕事にかまけて自分磨きできてないなーって思うんです。」
 「親友にも言われちゃったんですよ、
  最近女子っぽいことしてないねって。」
  「私、このまま枯れちゃうんでしょうか…。」
柾「そんなことないですよ。」
 「凡奈さんはすごくいきいきとしてます。
 枯れちゃうなんて、言わないでください。」
凡奈「正木さん…。」

凡奈、かなり酔っている。

凡奈「私、正木さんみたいな人がそばにいたら、
  もっといろいろ頑張れる気がします…。」

くたっと柾にもたれかかり、寝てしまう凡奈。


場面転換・朝

〇高級ホテルの一室

目覚めると裸の凡奈。
となりには柾の寝顔。

凡奈(ど…どうしてこんなことに…!!?)
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