冬 -Domestic Violence-
――――――
「ごめん、疲れた?」
「久し振りに・・走りました・・。」
「ごめんさすがに・・
あの大勢の前で言うのは無理だった。」
「・・・何をですか・・・・・?」
「ホントは今日の最後に言うつもりだった。
イルカショー見て、今日も一日楽しかったねって・・その最後に言うつもりだった。」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・クルミちゃんの披露宴でさ。
カラフルなセーラー服のコスプレした子達が出てきて、めっちゃ盛り上がるダンスして、
俺らのテーブルも、
他のみんなもノリノリで・・。
クルミちゃんも拓也も高砂で笑ってて・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
「でもフッと・・その盛り上がりの輪を見たら・・・
水色の子だけが泣いてたのが印象的だった。
笑ってるのに・・
すごい楽しそうなのに・・。
でもその目はうっすら光ってて・・・。
だから・・この子は凄く感受性が豊かなんだなぁって思って・・。
俺、気付けばずっとその子を目で追ってた。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「お店に来てくれた時、
俺すっごい心臓バクバクだったんだよ。
あと・・いつの日か駅まで送っていった時・・。
“月が綺麗”とかって話逸らしたけど、
正直・・隣で歩いてる上原さんの事しか見えてなかった。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
目の前に立つ姿が、どんどん滲んでいった。
メイクが崩れるとか・・・
そんな事はどうでもよかった・・。
溢れ出す涙を人差し指でそっと拭ってくれた後・・・
そのまま優しく包み込んでくれた。
「さっき・・勢いで彼氏面しちゃったけど・・上原さんが良ければ・・
本当に彼氏にしてくれませんか?」
すぐに離れようとしたけど、
“濡れても大丈夫だよ”と言ってくれた。
だから・・ずっと・・・・
中野さんの胸の中で嗚咽を漏らした。