間宮さんのニセ花嫁【完】
仕上がった抹茶を彼女の前に出して飲んでもらう。いつだって自分で点てたお茶を人に飲んでもらうときは緊張する。
しかし今回は彼女がすぐに反応してくれたからか、緊張は簡単に溶けていった。
「凄く飲みやすいです! 美味しい!」
「よかった、実は私も茶道を始めて数か月でして……」
「まだお若いのに、お名前を伺っても?」
「……飛鳥と言います」
彼女の前で間宮の名前を出せず、罪悪感で胸が締め付けられる。自分がまるで逃げているみたいで嫌になった。
先生はどうして茶道を?と尋ねられ、私はつらつらと今日までの流れを口にする。
結婚相手が茶道の家元の息子であったこと、嫁ぐために彼の祖母に認められなければならず、その為にスパルタ稽古を受けてきたこと。
それを聞いた彼女は自分のことのように時に悲しがったり、嬉しがったりして話を聞いてくれていた。
なんかこの人と話していると気が楽になるな。きっと他人のことを否定せずに受け入れてくれているからだ。
「(間宮さんに似てる……)」
彼も人の言葉や気持ちを否定せず、最初に全てを受け入れて助言をしてくれる。だから会社での信頼も厚く、慕われているのだ。
二人の共通点に何故だか帯で締められたお腹がきゅうと縮こまった。
「そう、それは大変でしたね」
「でもお陰で新しい自分を見つけられたというか、いいことも沢山ありましたし」
「ふふ、それに比べたら私が茶道を始めようと思った理由なんてちっぽけなことのように思えてきました」
「え?」