間宮さんのニセ花嫁【完】
「先生?」
「っ、は、はい!」
「どうかされましたか?」
全く反応がない私を不思議そうに見つめる彼女に我に返ると遅れて宜しくお願いしますと頭を下げた。
顔を上げないまま私は目の前で起こっている状況を頭の中で整理する。どうしてここに間宮さんの元カノさんが? もしかして間宮さんに会いに? いやでもここに来ても彼には会えないし。
コンマ数秒の思考を終えて顔を上げると純粋無垢な笑みを浮かべる彼女に考えていたことが全て吹っ飛んだ。この人はただ単に茶道を学びにきただけ?
「そ、それでは早速始めていきたいと思います!」
とにかく今は桜さんの代理を全うしなければ。私は気を取り直してお茶を点てる準備を始めた。
茶を点てるときの作法や手順を教えながら一度生徒の前でお手本を見せる。人に見られながら作るのは初めてではないが彼女、楓さんがあまりに真剣な表情で見つめてくるため思わず手を止めてしまった。
「あの、何か気になることでも?」」
「い、いえ! ごめんなさい、茶道初めてなものだから興味深くて」
「そうなんですか?」
花菱の模様をあしらった着物に身を包む彼女の振る舞いはとても茶道の初心者には思えなかった。元から所作が綺麗な人なのだろう。
桜さんに似た可愛らしい笑みを浮かべる彼女に自然と空気が絆されていくのが分かった。