間宮さんのニセ花嫁【完】



私がお風呂をいただいたのと交代で入りに行った間宮さんを見送ると玄関近くのテーブルの上に置かれていた紙袋を見て「あ!」と思い出す。


「(これ、間宮さんが出てきたときに食べれるように準備しておこうかな)」


時刻はもう12時を回ってしまっているけれど、でも私たちのバレンタインデーはまだ終わっていないはず。
午前1時、間宮さんが脱場から出てきたのを捕まえて窓の近くにあった椅子に座らせた。


「飛鳥は昨日仕事だっただろ。疲れてないか?」

「千景さんにあったら疲れなんて気にならないですよ。それよりこれ……」


テーブルの上に手にも余る大きな箱を置くと彼は「これは……」と小さく声を漏らした。


「遅くなりましたが、バレンタインデーのチョコレートです」

「……そうか、持ってきてくれてたんだな」

「もう深夜ですけど折角なので一緒に食べませんか!?」


ね!と私がナイフを取り出すと「切り分けるものを持ってきてたのか」と彼が笑った。
私がこの日のために練習してきたのは抹茶を使ったザッハトルテだった。最初は普通のチョコレートだったのだが、折角の間宮さんへのチョコなので彼が好きな抹茶を使ったものを作りたいと途中で思いついたのだ。

ケーキと一緒に持ってきていたナイフで紙皿の上に切り分け、少し不格好なそれを間宮さんに差し出す。
彼は「ありがとう」と一言告げると大事そうにフォークで一口含んでくれた。

と、


「美味しいよ、凄く。ありがとう、飛鳥」

「い、いえ。やっと完成形を食べてもらえて私も嬉しいです!」

「沢山練習していただろう。お返し、頑張らないとだな」



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