間宮さんのニセ花嫁【完】
「ここ、祖母の部屋。挨拶することは昨日の夜に伝えてあるから」
「っ……緊張しますね」
「……」
間宮さんは「一応なんだが」と、
「この家では俺のこと、下の名前で呼んでもらえると助かる。殆どが間宮の人間だから」
「あ、そうですよね!」
「それと……俺も佐々本のこと下の名前で呼ぶことになるが大丈夫か?」
「はっ……」
間宮さんが私を下の名前で呼ぶ!? そんなことがあっていいのだろうか!
というか、そんなことが会社に知れたら間宮さんファンに滅多刺しにされるんじゃないだろうか。
しかし、この状況ならそうせざるおえないのでは……
「わ、分かりました。大丈夫です、呼んでください」
「……これ、本当にセクハラになりそうだな」
「いや、間宮さんなんで大丈夫です」
「……? どういう意味?」
間宮さんほどのイケメンに名前で呼ばれるのはご褒美でしかないということです。
それじゃあ、と間宮さんは頰を掻きながら気恥ずかしそうに、
「……飛鳥」
「っ……」
こ、れは……!
「(思っていた以上に恥ずかしい!)」
間宮さんも私と同じ気持ちなのか、顔が赤く染まっているような。でも間宮さんも頑張ったんだし、私も覚悟を決めなければ。
「ち、ちちち、千景さん!」
「吃りすぎじゃないか?」
「すみません……すぐ慣れるようにします」
彼は名前を呼ぶだけで精一杯の私を見て可笑しそうに笑うと「じゃあ入るか」と引き戸に手を掛けた。
神様、私は間宮さんに呼び捨てにされるなんて、前世はどれだけ徳を積んだんでしょうか。