新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~
「別れ話をしようとしているのは、お父様がご隠居されるのと関係ありますか」
答えられずに黙っていると、彼女が言う。
「大切なものを手に入れそうになると、自ら手を離すかもしれない」
「え」
「そう中村先生が私に言伝しました」
「父が? いつ」
「私も省吾さんのお父様とは、仲良くさせていただいていますので」
これには笑えてしまった。
つい、今まで隠していた気持ちが、憎まれ口として吐き出される。
「ハハ。逢い引きですね。想い人と会えるのだから、結愛さんはこの結婚をやめたくないわけだ」
頬を軽く、両手で挟まれるように叩かれた。
ペチンと間抜けな音を立てる。
「本当に、そう思っておられるのですか」
「それはそうでしょう? 父を想っていていいと言ったのは私です。謳歌すればいい」
見つめ合う瞳には、お互いの姿が映る。
彼女に映る情けない自分の姿を目の当たりにして、嫌気がさす。