新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~

 彼女の澄んだ瞳に、迷子の子どものような顔をした自分が映る。
 きっと、ずっと迷子になっていた、私の中にいる大人になりきれなかった子どもの部分。

「母が、亡くなって」

 ハッと息を飲んだ彼女が弱々しく告げる。

「ごめんなさい。気づかなくて。そうですよね。悲しくて、つらい……」

 彼女の声が掠れ、つい笑ってしまう。

「どうして結愛さんが泣くのですか」

「だって、この先ずっと大切な人はいらないって思うほど、つらかったのだと思うと」

「そうですね。つらかった。母が亡くなって。どうせいなくなるのだから、大切な人は、もういらないと」

 彼女はなにも言わない。
 きっとかける言葉が見つからないのだろう。

 私もそれで良かった。

「肩を、貸してくれませんか」

「え」

「少しだけ」

 彼女の肩に、顔をうずめる。
 彼女は、私の体に優しく腕を回した。

 そして彼女の手は、私の背中に置かれた。
 トントントンと優しく三度。

 涙は勝手にあふれ、彼女の服を濡らす。
 彼女はそれでもトントントンと、優しく手を置いた。
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