新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~
彼女は静かに告げた。
「弟さんはお父様のように、ご自身の大切な人の死に目に会えないような生活をさせたいのですか」
ドクンと胸が騒ぎ、母の亡くなった日が鮮明に蘇る。
手は勝手に震え、鼻の奥が痛くなる。
彼女に悟られないように、手を隠してみても無駄だった。
「ごめんなさい。酷いのは私です」
彼女は私を抱き寄せ、体に腕を回した。
トントントンと、今は背中に手は置かれない。
代わりに「省吾さん、大好きです。私はずっと側にいます」と愛を囁かれた。
そして穏やかに、説き伏せるように言った。
「だから自分に嘘はつかないで」
涙がひとすじ、頬を伝う。
「手を、背中に。いつもの合図を三回でなく五回してくれませんか」
それはずっと、彼女に内緒で送っていたサイン。
『愛してる』
彼女は私の背中に言われるがまま、手を置いた。
背中に五回、それは何度も繰り返された。
奇しくも彼女は「愛しています」と愛の言葉を囁きながら。