新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~
「産業医は大切な仕事です。けれどお母様を思って乳腺外科を迷われるくらい、高い志を持っていらっしゃったのだろうと思うと」
「それは……ジレンマを感じる時もあります。産業医は医療行為ができませんから」
「でしたら、でしたら、内科医を続けられたらいいと思います。ご自分が内科医を泣く泣く諦めなければならない時に、お父様が辞められると聞いたから、怒っているのではありませんか」
「泣く泣くではありません。私は自分の意志で」
彼女は力なく頭を左右に振る。
「では、弟さん、ご結婚は」
「しています。なんですか、父の次は弟ですか」
「はい?」
「私は父に似ていない。母似ですから。弟は父に似ています。将来、父のようになるのは弟の方で」
頬を両手で挟まれ、グイッと持ち上げられたと思ったのも束の間、唇が押し当てられ、続きの文句は口から発せられない。
「私が好きなのは、省吾さんだけで、あんなにも愛し合ったのに。まだそんな酷い」
続きを聞く勇気は残っていなくて、力なく言う。
「ごめん。……ごめん」