新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~
結婚したという情報はいち早く女性社員の中で回ったらしく、女性の過熱ぶりも落ち着いてきているようだ。
だからこそ相手が私だとは到底言えない。
どこかのお嬢様、もしくは看護師や女医さんなど。
自分たちとは関係ない遠い人物との結婚だからこそ、違う世界の人だからと納得もできるというものだ。
私自身もまだ実感がない。
職場で見かけると、ますます現実味がなくなって来たりする。
医務室に向かいながら緊張感は増していく。
医務室の前で数度、深呼吸をしてからノックをした。
「失礼します」
ここに来ると、小学生の頃に職員室へ入る時と同じような気持ちになる。
借りてきた猫のように落ち着かない。
ベッドや医療品がしまわれているであろう戸棚に、医学書が並べられている本棚など。
それらの配置が、学校の保健室そのままの雰囲気を感じさせるせいかもしれない。
五十嵐先生は、奥のデスクに座る。
近くには、看護師の小椋さん。
「おはようございます。今日から健康診断が始まります。よろしくお願いします」
「今日の名簿ですね。ありがとうございます」
小椋さんは二十代後半くらいの綺麗な女性。
スラッとしていて、長い髪を後ろに一つに結んでいる姿は凛としている。
いつ見ても五十嵐先生とお似合いな気がして、なんとなく気が引ける。