しずくの恋
駅前でタピオカミルクティーを飲みながら
杏ちゃんが目をいたずらに動かした。


「明日さ、流山に話しかけてみようよ!

昨日、空手、体験したんです!
どうしたら上手になりますかって!」


「そうそう!個人的に空手教えてくださいって、言ってみたら?」



ふたりに笑顔を作りながら首を横に振るけれど、
うまく笑えた自信はない。


「流山くん、私に気付いてすらいなかったから」


さすがに、もう話しかける勇気はなかった。

心が砕け散ってしまった。



「普通はそうなんだって!

しずく、どこに行っても目立つから、
目立たないことに慣れてないだけだよ。

流山、練習に集中していただけだと思うよ!」



「そうだよ!小学生の面倒も見てたみたいだし、忙しそうだったよね」


必死に励ましてくれるふたりにますます申し訳ない気持ちになる。



「杏ちゃん、琴ちゃん、……ありがとう」



そう言って視線を落とした。


ふたりの優しさが心に沁みる。


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