腹黒王子の初恋
 店に着き、車から降りると急にゆうきゅんが私の手を取った。

「さ。ゆめちゃん、行くよ。」
「え??」

 私はびくっと震えた。手?手!どういうこと?私はプチパニック。

「今から俺たちはカップルだから、タメ口でね。俺のこともちゃんと名前呼びしてね。」
「え?」

 ゆうきゅんが作ったように満面の笑顔を向ける。意味がわからない。

 開店10分前。お店の前にはすでに3組の客が。みんなカップル。仲良さげに手をつないでいたりくっついている。この様子に嫌な予感がした。店のドアに貼ってあるチラシが目に入った。

【カップルイベント開催】

 何でもカップルで来店するとスイーツバイキングが1時間半額になるらしい。

 おーう!昨日ゆうきゅんが言ってたやつじゃん。私はゆうきゅんと繋がれていない方の手で頭を抱えた。それから手を離そうとしたけど、さらにぎゅっと握られた。

「文月くん!私たちカップルじゃないし。手離して!帰ろ…っ!!」

 最後まで言う前にゆうきゅんの長くてきれいな人差し指が私の唇を抑えた。私は大きく目を見開いて固まった。

「しっ!声大きい。ゆうきゅんだって!だめだよ。」
「・・・・!」

 ゆうきゅんのドアップに真っ赤になって息を飲む。そして悲しげな顔になって私を見つめる。

「俺、がんばって探したのに。ゆめちゃんが好きそうなスイーツ・・・俺も昨日から楽しみにしてたのに。ね。それでもダメ?」

 も~ズルい。こういう時におねだりゆうきゅん出してくるんだから。ホント自分の魅力をわかってる。私は断ることもできずにしぶしぶうなづいた。その様子を見てふふっと嬉しそうに笑って私を抱き締めた。

「ちょ・・ちょっと。」

 ゆうきゅんから出てこようと胸を押すけど、びくともしない。もう。やめてよ。心臓がもたない。

「俺たちはカップルなんだから。」
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