腹黒王子の初恋
「さあさあ、これも食べて。」

 ゆうきゅんが私のお皿に新しいスイーツを置いた。抹茶の生チョコ。抹茶ムース。抹茶大福。無表情が少し緩む。おいしそう。この子たちには罪はない。一度決めたことをぐずぐずするのはよくないぞ。よし!食べるぞ~。

「ん。おいしい。」
「ね!おいしい。」

 ゆうきゅんのお皿をみるとてんこもりのスイーツ達が。

「あの?ふづ…ゆ…甘いの大好き?」

 名前を呼べず誤魔化して控え間に聞く。

「・・・っ。男がこんなに恥ずかしいですよね?」

 ゆうきゅんのテレ顔!

「ちょっと。ニヤニヤしないでください。また変なこと考えてません?」

 敬語になった。きっとこれゆうきゅんの素だ。

「ふふっ。かわいい。文月くんとスイーツ激萌えです。」
「・・・」

 じっと見つめるゆうきゅんと目が合い、はっとして目を逸らす。

「・・・・・・」

 黙々とスイーツを食べることに。ああ。今日も何だかうまく話せない。

「・・・また固くなっちゃった。」
「・・・?」

 ゆうきゅんの呟きが聞こえた。

「気になってたんですけど、莉子さんとは中学からの仲なんですよね。前飲み会の時聞きました。すごく仲良しですよね。」
「え?莉子?うん。」
「優芽ちゃんと結構タイプ違うのにどうやって仲良くなったんですか。」
「えっと…中学2年生の時に同じクラスになったんだけど…」
「うんうん」

 生チョコを口に入れながら莉子との出会いを思い出した。

「私はこの通り人見知りだから友達ができずに一人でいたの。莉子は莉子で性格がさっぱりはっきりしてるから友達とモメて一人でいたの。」
「莉子さんサバサバしてますもんね。」
「中学女子の付き合いって結構面倒くさいから。」
「そうでしょうね」

 ゆうきゅんはよくわかるかのようにうんうんうなずく。

「お互い一人になってるときに席替えで前後になったんだ。」
「へー。」
「莉子はそんな私が珍しかったのか結構構ってくれて。だんだん仲良くなったかな。」
「高校は?」
「高校も同じで大学は違う。莉子のサバサバしたところがすごく好き。わかりやすいからおたがい気を使わなくていいし。だから泰晴ともすぐ仲良くなったなぁ。」

 泰晴の言葉にピクリとゆうきゅんが反応する。

「辻先輩は優芽ちゃんが紹介したんですか。」

 少しトーンが低くなった声にちょっとドキッとした。話題が泰晴のことに移る。

「うん。新人研修旅行で仲良くなったんだけど、莉子に話したら、絶対紹介しろって。」
「あはは。その時の莉子さんの顔が思い浮かびます。心配もありつつ面白がってる感じ?」
「ふふ。そうそう。二人はすぐ仲良くなったね。そういえば文月くんもすぐ仲良くなってた。あの飲み会のあと結構飲んだの?コミュ力ある人はホントうらやましぃ。」
「あの時は結局1時間くらい二人で飲みましたよ。まあ、ずっと優芽ちゃんの話でしたけど。」
「ホント?恥ずかしいな。変なこと話してない?」
「ふふ。莉子さんがどんだけ優芽ちゃんのこと愛してるかわかりましたよ。」
「まあね~うちらは相思相愛よ。へっへっへ。」

 ゆうきゅんがふわっとやさしそうに微笑む。

「辻先輩って彼女いないんですか。」
「ん?泰晴?いないよ。心配しなくても。」
「・・・なんか変な言い方ですね。」
「入社したときはいたみたいだけど、ちょっとしたら別れたみたい。」
「へー。それはそれは。」
「それからずっといないよ。泰晴にはめずらしく。」
「それからずっとね…」
「学生時代には切れずにずっといたみたい。そりゃあそうだよね。泰晴だもん。」
「なんかうれしそうですね。」
「まぁ、自慢の友達ですから。」

 胸を張って言うと、はーーーっとため息をつきながらゆうきゅんが私の両手を握ってきた。

「ヤキモチですよ。莉子さんと辻先輩の話をする時はそんな笑顔でたくさん話してくれるのになぁ。」

 また急に固まった。そりゃそうだよ。ゆうきゅんは緊張するから。こうやってたまに変な空気にしてくるし。

「二人でいるのに辻先輩たちの話を持ち出さないといけないのが悔しすぎる。」
「・・・」

 急に空気感を変えないでほしい。見つめてくるゆうきゅんの視線から外せずに固まったままでいると。
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