腹黒王子の初恋
「あれ?祐宇じゃない?」

 声の方を見るとひとりの女性が。きれいな茶色のウェーブの髪がふわっと揺れる。私よりも少し年上そう。きれいな大人女子だ。

「あ。詩織。」

 ゆうきゅんが名前を呼ぶ。呼び捨てで。胸がチリッと傷んだ。

「ひさしぶりね。元気だった?」

 詩織さんと呼ばれた人はべたべたとゆうきゅんを触っている。何この人。

「うん。久しぶり。」

 テンション高めに話す詩織さんに比べてゆうきゅんは何だかぎこちない。チラと私を見た。

「最近全然連絡くれないんだもん。寂しかった。」

 詩織さんも私を見ながらまたゆうきゅんの肩を触る。何だかこの人嫌。

「こちらは彼女?」
「まぁ。」

 私は会釈のみ。

「そっか。私も彼とだけど。あそこ。でも、いつでもまた連絡してね。」

 ゆうきゅんの頬をするりと触って自分の席に帰って行った。

 何だろ。元カノ?何だか嫌な感じ。人のこと値踏みするように見て。ゆうきゅんも何だかそわそわしてる。

「・・・元カノ?」

 思ったより掠れた声が出た。

「嫌。そんなんじゃないですよ。」
「仲よさそうだったから・・・」
「気になりますか?」

 ゆうきゅんが真面目な顔して聞いてくる。

「別に。」

 お皿に残るスイーツを食べ始めた。

 嘘。すっごく気になる。そりゃあ、元カノの一人や十人はいるよね。ゆうきゅんだもん。私には関係ないのに。このすっきりしない胸の感じはなんなんだろう。

「文月くん、このムースすごくおいしいよ。」

 この気持ちを払拭するかのように思いっきりの笑顔で話しかけた。
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