腹黒王子の初恋
「…ん…」

 目を覚ますと。柔らかく微笑むゆうきゅんが目に入った。

「…ゆうきゅ…?」
「はい。よく眠れました?」
「……」

 次第にはっきりしていく意識。

「はっ!ごめん!すっかり寝ちゃった。今何時?」
「あははは。大丈夫ですよ。むしろありがとうございました。寝顔じっくり楽しませていただきました。」
「ひーっ!」

 黒く微笑むゆうきゅんに声にならない声で叫んだ。

「今2時くらいですね。」
「うわー!そんなに寝てたのか。ごめんね。」

 周りをきょろきょろすると、自分の家の前だとわかる。

「待たせちゃってごめんね。しかも、見苦しい私の寝顔を見せてしまって!」
「もう。またそんなこと言って。俺のがありがたかったんですから。でも、我慢するの大変でしたけど…」
「え?」

 最後の方は小さい声になって前を向くゆうきゅん。我慢って何の我慢?

「さあ、今日はありがとうございました。疲れてるみたいだし、家で休んでください。」

 その言葉に急に息苦しさが襲う。最近初めての感情ばかりで自分がよくわからない。何だろう。まだ帰りたくない。

「……っ!」

 いきなりゆうきゅんが驚いたように私を見た。

「え?」

 私も驚く。ゆうきゅんの視線を辿ると。私がゆうきゅんの服をきゅっとつかんでいた。

「……ひっ!」

 私はまた声にならない声をあげてつかんでいた手を離した。な、な、何してたんだろ。

「ごめん!私、帰るね。ありがとう!」

 それだけ言い残して車を慌てて降りる。アパートの階段を上がろうとしたところ

「ちょっと待って!」

 ゆうきゅんに腕をつかまれた。

「俺、お腹すいちゃった。優芽ちゃん何か作って。」
< 50 / 103 >

この作品をシェア

pagetop