腹黒王子の初恋
「かんぱーい!」
カシスオレンジとお茶で乾杯する。
「うん!おいしぃ!」
ゆうきゅんが口いっぱいにお肉とご飯をほおばり笑顔で言う。
「そ、そう?よかった。」
一安心。なんだかこそばゆい気持ち。私はみそ汁に口をつけた。
「優芽ちゃん、料理上手ですね。また作ってください。」
「え?だめです。そんなできないよ。生姜焼きは簡単だから…」
「簡単?ちょーうまいですけど。今度俺の家で作ってくださいよ。」
「ええっ?家?」
「ふふっ、焦りすぎ!冗談ですよ~。」
なんだ。冗談か。すぐ本気にしてしまう。ゆうきゅんの家か。ちょっと行ってみたい。お。妄想がふくらみそうだ。ふむふむ。
「ちょっと、優芽ちゃん!また変なこと考えてません?」
「はっ」
「あははっ。何か最近優芽ちゃんが妄想に入る時がわかってきましたよ。」
「うっ。すみません。」
焦ってカシスオレンジを飲み干した。
「ちょっと!ゆっくり行きましょう。また記憶飛ばしますよ。」
「はあ、はあ、ごめん。」
「優芽ちゃん、お酒よく飲むんですか。冷蔵庫にたくさんありましたね。」
「え?お酒?普段はあまり飲まないです。よく莉子や泰晴が遊びに来るから。」
「……へ~え?莉子さんと辻先輩がねぇ…」
生姜焼きを口に入れて、お酒を少し飲む。さっきの一気で体が熱くなってきた。甘いけどお酒なんだよなぁ。
「辻先輩が一人で来ることもあるんですか。」
ゆうきゅんの声のトーンが下がった。
「まぁ。この前の飲み会で酔いつぶれた時も家に連れて来てくれたし。」
「そうですか~ここに二人きりか。そうかあ。そうか…」
ゆうきゅんはぶつぶつ言いながら大きな口でご飯と肉を食べている。その間に添えられたキャベツやみそ汁を挟みながら。私はお酒をちびちび飲みながらゆうきゅんを観察していた。かわいい顔してがっつりご飯を食べる姿はたまらないなあ。口についたごはんやみそ汁を豪快に手で拭うのもたまらない。ああ、それに飲み込むときの喉が動くのも…
「ごちそうさまでした!」
手をパチンとそろえてゆうきゅんが言った。はやっ。
「ホントーにおいしかったです!ありがとうございました。」
「いえいえ!こんなものですみません。今日車運転してくれてカフェ代も出してくれたのに。」
「俺が誘ったんですから。出しますよ~。また行きましょうね。」
「うん…」
「優芽ちゃんはゆっくり食べてくださいね。」
「あ、プリンあるよ。食べる?」
「プリン?まだ甘いの食べるの?ははっ。」
「え?でも?食べれるでしょ?」
「ふふっ。もちろん食べれます!」
「へへっ。やっぱり。」
「食べ終わってから一緒に食べましょう。」
「私まだ時間かかりそうだよ?」
「大丈夫です。ゆ~っくりどうぞ。」
ゆうきゅんが微笑んで私を見る。私もニコリと微笑んだ。お酒のお陰がさっきより普通に話せる。
「優芽ちゃん、部屋かわいいですね。意外にかわいいものやオシャレ好きですよね。」
「意外って。へへっ。」
部屋をぐるりと見まわして言った。パステルカラーの淡い色で統一した家具たち。そこに雑貨屋さんや文具店で見つけたグッツが並ぶ。
「会社での優芽ちゃんと比べたらねぇ。」
「まあ、そうだよね。」
「なんでわざとあんな恰好してるんですか。かわいいのに。もったいない。」
「かわいいって?何言ってんの。私なんかが。」
「またネガティブ発言。よくないですよ~」
ゆうきゅんが軽くにらんで言う。うっ。そんな顔もかわいい。
「だって。同期が泰晴だよ。目立ちたくないもん。」
「逆に目立ってますよ。」
「そうなのかな。でもいいの。話しかけにくいでしょ。話しかけられなければいいの。」
「話しかけにくいオーラはちょ~出てますけど。あはは。」
またじっとゆうきゅんを観察する。私の家にゆうきゅんがいるんだなぁ。改めて思うと何だか不思議。見慣れた自分の部屋がすこし違う色で見える感じ。
「そういえば、印刷物くれるときいつも付箋つけてあるじゃないですか。」
「えっ?う、うん」
やば。またゆうきゅん見すぎてた。
「メッセージ書いて。あれは?」
「うん。私気が利かないし、話せないから、少しでもみなさんの力になりたくて。あと、買った付箋紙使いたい。ふふっ。」
「俺はすごくうれしくていつも力もらってますよ。」
「よかった。ホントはもう少し社員のみなさんと話せたらいいんだけどね。」
「別にそんなにがんばって話さなくていいですよ。印刷物渡すときに少しだけ笑顔にしてみたらどうですか。」
「笑顔かあ。」
「それだけで全然違うと思います。」
「笑顔できるかな…ちょっと練習しときます。」
「あはは。練習してみてください。」
ゆうきゅんが柔らかく微笑む。まただ。ドキリと心臓が動く。最近よく見せてくれる。これは素の笑顔なのかな。急にドキドキしてきた。あ。瞬きした。まつ毛長い。
「優芽ちゃん、じっと見すぎですよ。」
急にこっちを向いた。あ。ほっぺにご飯粒ついてる。思わずほっぺに触れる。
「…っ!」
ゆうきゅんがびくっとした。
「え?ご飯粒顔についてる…」
「え?あ、ありがとう。」
不意にゆうきゅんの膝が私の膝に触れた。近い。いつの間にこんなに近くに座ってたんだろう。シトラスの香りが急に近くに感じた。ゆうきゅんの瞳の熱にとらわれて目が離せなくなった。色気がヤバい。胸の音しか聞こえなくなった。いつもとは違う男を感じる瞳の熱。
「何でそんな顔して見るの?無自覚?」
ゆうきゅんがぼそっと言った。
「さっきからずっと俺見てる」
ゆうきゅんの顔が少しずつ近づいてくる。金縛りになったみたいに動けない。何だかスローもショーンでも見てるようにゆうきゅんの顔をじっと見ていた。あ。目少し茶色い。
その時、少しひんやりした手が私の頬に触れた。
「……つ!」
ゆうきゅんが思いっきり私から離れた。心底驚いた顔で。あ。また新しい表情だ。私はぼーっとしながらそんなことを考えてた。
「…やば」
片手で口を押えながら呟いている。それから急に立ち上がり早口で言った。
「優芽ちゃん、ごはんごちそうさま!ありがとう!帰ります。」
「え?う、うん。」
「ちゃんと戸締りしてくださいね。」
カバンをつかんで急いで出て行ってしまった。
「・・・え?」
嵐が去ったかのように急に静かになる部屋で、私はしばらく動けずにいた。
カシスオレンジとお茶で乾杯する。
「うん!おいしぃ!」
ゆうきゅんが口いっぱいにお肉とご飯をほおばり笑顔で言う。
「そ、そう?よかった。」
一安心。なんだかこそばゆい気持ち。私はみそ汁に口をつけた。
「優芽ちゃん、料理上手ですね。また作ってください。」
「え?だめです。そんなできないよ。生姜焼きは簡単だから…」
「簡単?ちょーうまいですけど。今度俺の家で作ってくださいよ。」
「ええっ?家?」
「ふふっ、焦りすぎ!冗談ですよ~。」
なんだ。冗談か。すぐ本気にしてしまう。ゆうきゅんの家か。ちょっと行ってみたい。お。妄想がふくらみそうだ。ふむふむ。
「ちょっと、優芽ちゃん!また変なこと考えてません?」
「はっ」
「あははっ。何か最近優芽ちゃんが妄想に入る時がわかってきましたよ。」
「うっ。すみません。」
焦ってカシスオレンジを飲み干した。
「ちょっと!ゆっくり行きましょう。また記憶飛ばしますよ。」
「はあ、はあ、ごめん。」
「優芽ちゃん、お酒よく飲むんですか。冷蔵庫にたくさんありましたね。」
「え?お酒?普段はあまり飲まないです。よく莉子や泰晴が遊びに来るから。」
「……へ~え?莉子さんと辻先輩がねぇ…」
生姜焼きを口に入れて、お酒を少し飲む。さっきの一気で体が熱くなってきた。甘いけどお酒なんだよなぁ。
「辻先輩が一人で来ることもあるんですか。」
ゆうきゅんの声のトーンが下がった。
「まぁ。この前の飲み会で酔いつぶれた時も家に連れて来てくれたし。」
「そうですか~ここに二人きりか。そうかあ。そうか…」
ゆうきゅんはぶつぶつ言いながら大きな口でご飯と肉を食べている。その間に添えられたキャベツやみそ汁を挟みながら。私はお酒をちびちび飲みながらゆうきゅんを観察していた。かわいい顔してがっつりご飯を食べる姿はたまらないなあ。口についたごはんやみそ汁を豪快に手で拭うのもたまらない。ああ、それに飲み込むときの喉が動くのも…
「ごちそうさまでした!」
手をパチンとそろえてゆうきゅんが言った。はやっ。
「ホントーにおいしかったです!ありがとうございました。」
「いえいえ!こんなものですみません。今日車運転してくれてカフェ代も出してくれたのに。」
「俺が誘ったんですから。出しますよ~。また行きましょうね。」
「うん…」
「優芽ちゃんはゆっくり食べてくださいね。」
「あ、プリンあるよ。食べる?」
「プリン?まだ甘いの食べるの?ははっ。」
「え?でも?食べれるでしょ?」
「ふふっ。もちろん食べれます!」
「へへっ。やっぱり。」
「食べ終わってから一緒に食べましょう。」
「私まだ時間かかりそうだよ?」
「大丈夫です。ゆ~っくりどうぞ。」
ゆうきゅんが微笑んで私を見る。私もニコリと微笑んだ。お酒のお陰がさっきより普通に話せる。
「優芽ちゃん、部屋かわいいですね。意外にかわいいものやオシャレ好きですよね。」
「意外って。へへっ。」
部屋をぐるりと見まわして言った。パステルカラーの淡い色で統一した家具たち。そこに雑貨屋さんや文具店で見つけたグッツが並ぶ。
「会社での優芽ちゃんと比べたらねぇ。」
「まあ、そうだよね。」
「なんでわざとあんな恰好してるんですか。かわいいのに。もったいない。」
「かわいいって?何言ってんの。私なんかが。」
「またネガティブ発言。よくないですよ~」
ゆうきゅんが軽くにらんで言う。うっ。そんな顔もかわいい。
「だって。同期が泰晴だよ。目立ちたくないもん。」
「逆に目立ってますよ。」
「そうなのかな。でもいいの。話しかけにくいでしょ。話しかけられなければいいの。」
「話しかけにくいオーラはちょ~出てますけど。あはは。」
またじっとゆうきゅんを観察する。私の家にゆうきゅんがいるんだなぁ。改めて思うと何だか不思議。見慣れた自分の部屋がすこし違う色で見える感じ。
「そういえば、印刷物くれるときいつも付箋つけてあるじゃないですか。」
「えっ?う、うん」
やば。またゆうきゅん見すぎてた。
「メッセージ書いて。あれは?」
「うん。私気が利かないし、話せないから、少しでもみなさんの力になりたくて。あと、買った付箋紙使いたい。ふふっ。」
「俺はすごくうれしくていつも力もらってますよ。」
「よかった。ホントはもう少し社員のみなさんと話せたらいいんだけどね。」
「別にそんなにがんばって話さなくていいですよ。印刷物渡すときに少しだけ笑顔にしてみたらどうですか。」
「笑顔かあ。」
「それだけで全然違うと思います。」
「笑顔できるかな…ちょっと練習しときます。」
「あはは。練習してみてください。」
ゆうきゅんが柔らかく微笑む。まただ。ドキリと心臓が動く。最近よく見せてくれる。これは素の笑顔なのかな。急にドキドキしてきた。あ。瞬きした。まつ毛長い。
「優芽ちゃん、じっと見すぎですよ。」
急にこっちを向いた。あ。ほっぺにご飯粒ついてる。思わずほっぺに触れる。
「…っ!」
ゆうきゅんがびくっとした。
「え?ご飯粒顔についてる…」
「え?あ、ありがとう。」
不意にゆうきゅんの膝が私の膝に触れた。近い。いつの間にこんなに近くに座ってたんだろう。シトラスの香りが急に近くに感じた。ゆうきゅんの瞳の熱にとらわれて目が離せなくなった。色気がヤバい。胸の音しか聞こえなくなった。いつもとは違う男を感じる瞳の熱。
「何でそんな顔して見るの?無自覚?」
ゆうきゅんがぼそっと言った。
「さっきからずっと俺見てる」
ゆうきゅんの顔が少しずつ近づいてくる。金縛りになったみたいに動けない。何だかスローもショーンでも見てるようにゆうきゅんの顔をじっと見ていた。あ。目少し茶色い。
その時、少しひんやりした手が私の頬に触れた。
「……つ!」
ゆうきゅんが思いっきり私から離れた。心底驚いた顔で。あ。また新しい表情だ。私はぼーっとしながらそんなことを考えてた。
「…やば」
片手で口を押えながら呟いている。それから急に立ち上がり早口で言った。
「優芽ちゃん、ごはんごちそうさま!ありがとう!帰ります。」
「え?う、うん。」
「ちゃんと戸締りしてくださいね。」
カバンをつかんで急いで出て行ってしまった。
「・・・え?」
嵐が去ったかのように急に静かになる部屋で、私はしばらく動けずにいた。