腹黒王子の初恋
「はぁーっ」

 デスクで小さくため息をつく。仕事が手につかない。先日の駅での一件からなんだかゆうきゅんがよそよそしい。目が合えば微笑んでくれるけど顔がひきつってる。

 もしかしてもしかして本気で私のこと好…続く言葉を飲み込み頭を振る。イヤイヤ。違う違う。そんな都合よく考えるのは失礼だよね。もちろん私も友達として好…えぇ。何だか言えない。おかしいな。イヤ…でも。ゆうきゅんの辛そうな顔が浮かぶ。え?ホント?嫌。違うって私なんかが恥ずかしいし。

 そんな考えがずっと堂々巡り。

「はぁ…」

 もう一度溜息をついて席を立つ。ちょっと休憩しよ。みかんジュースでも飲もうと休憩室へ向かうことにした。

 休憩室に泰晴を発見。お、誰といるのかと中を確認しようとしたとき…

「何で怒らないんですか!」

 ゆうきゅんの大きな声が聞こえた。思わず自販機の影に隠れた。見たことのない興奮した様子に驚く。

「怒るって…俺が確認しなかったのが悪いだろ。」

 泰晴が苦笑いをしている。

「違う!俺のミスなのに先輩が頭下げて。」

 ぐっと拳を握って下を向いている。

「俺のせいなのに何で先輩が怒られて…」
「そういうもんなの。俺がお前の世話係でチームだろ。最終確認を俺がしっかり見なくちゃいけなかったんだ。」
「…でも…」

 ゆうきゅんはまたぐっと拳を強くにぎった。血が出そうなくらい。

「ごめんな。完全に俺の確認ミスだから。文月はまだ新人だし、次気を付けよう。」

 泰晴がゆうきゅんの肩に手を置いた。その瞬間、

「…っ!」

 その手をゆうきゅんがばっとはねのけた。

「先輩が謝らないでくださいよ。俺がずっとみじめになる。」
「…文月…」
「俺のことムカついてるくせに。部長に頭下げさせて。それなのに!何でそんなできたことが言えるんですか?」

 ゆうきゅんが顔をあげた瞬間、私と目が合った。

「…っ!」

 思いっきり息を飲んだのがわかった。そして思いっきり顔を歪めて休憩室を出て走って行ってしまった。

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