腹黒王子の初恋
「…優芽…」

 泰晴がつぶやく。

「え?どうしたの?」
「嫌、ちょっとトラブル。気にするな。」
「え?気になるよ。あんなゆうきゅん初めて見たよ。」
「そうだな。あんな熱い奴だったんだな。ははっ」
「何があったの?」
「何でもいいだろ。そんなことより優芽はここにどうしたんだよ」

 はぐらかす泰晴に詰め寄り問い詰める。

「何があったの?」
「…」
「教えてよ」
「…イヤ…」
「ねぇ!」
「…はぁ…」

 頭をガシガシ掻いて泰晴は溜息をついてから口を開いた。

「ある文具店でイベントやるから文具の発注を工場に入れたんだよ。その入力を文月にやらせたんだけど、注文数を間違えてて…」
「…そう…」
「その文具はちょっと特殊だからなかなか置いてくれる店舗も少ないんだ。だからちょっとな。」
「さっき泰晴がチェックしなかったって…?」
「そうなんだよな。俺が見なきゃいけなかったのに忙しくて、入力だけだしまあいいかなって思ってさ。」
「そっか。」
「気づいたときにはもう工場で機械動かした後だったんだよ。だから明日物が届く。大量に。」
「わかった!ありがと!」

 私はお礼を言ってその場を離れようとした。

「おい、優芽。どこ行くんだ?」
「え?ちょっとゆうきゅんの所に…」
「やめとけって。お前には来てほしくないと思うぞ。」
「でも…」

 走り去る前の私を見て固まった顔が思い浮かぶ。そうなのかもしれない。でも、あんな様子のゆうきゅんを一人にしておけない。

「やっぱりほっとけない!」

 泰晴に困ったように微笑んで私はゆうきゅんが去って行った方に走って行った。

「……」

 泰晴は複雑そうな顔をしたまま何も言わなかった。
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