腹黒王子の初恋
「かんぱーい!!」
「みんな、お疲れ!」

 会社説明会の打ち上げが始まった。なんだかんだうちの会社は集まりが多い。仲のいい証拠か。私には辛いけど。

 席の端でちびちびとカシスオレンジを飲む。空気になってみんなの様子を観察するのが私の任務だ。でも、今日はちょっと違う。

「優芽、次これ食おうぜ」

 泰晴が横にいる。

「泰晴、おつかれ!今日の挨拶もよかったな。お前、前出るとますます輝くな」
「ありがとうございます。イヤ、今日は文月に負けますよ。」
「確かに。アイツすげーな。1年目であの挨拶はできんわ。お前とばっちり食ってたしな。はは」
「ホントですよ!ふっ。でも、学生たちが喜んでくれてたから、全然いいですけどね。」

 ゆうきゅんの活躍を思い出し心の中で何度もうなずいた。ゆうきゅんは部屋の真ん中くらいの席にいた。周りをいろんな人に囲まれながら。いつもの笑顔で楽しそうにお酒を飲んでいる。

「お前ら二人には負けてられねぇな。俺もがんばろ。かんぱーい」

 泰晴と総務の先輩がビールを飲むと、先輩が私の方をチラと見た。

「あのさ、お前ら二人付き合ってんの?」

 へっ?驚いて思い切り首を何回も横に振る。

「え?違うの?みんな聞かないけどすごく気にしてんだよな。梢さんには聞きにくいし」
「ま、仲良し同期です。二人だけなんで。」
「…そ、そ、そうです...!」
「そうなんか。梢さん、俺とももう少し仲良くしてね。」

 先輩は私のグラスにカチンと合わせて席を立って行った。

「ほら!泰晴のせいで目立ってるじゃん。バレたくない。」

 私は泰晴の脇腹をつつきながら小声で話す。

「別にいいだろうが。」

「泰晴おつかれ!」

「辻くん、かんぱい!」

「辻先輩なんでこんな端にいるんですかー?」

 いろんな人が泰晴と話に来る。また脇をつついて話す。

「ちょっと、泰晴。みんなが話したがってるから向こう行って来たら。もっと真ん中。」
「いいよ。お前、一人じゃ寂しいだろ。」
「いや!いいよ!私は一人が好きだ!」

 私はぐいぐいと泰晴を押した。

「わかったよ。上司に挨拶でもしてくるから。飲みすぎんなよ。」
「はいはい、分かってるから。行ってらっしゃい!」

 泰晴がしぶしぶ席を立った。よし、これでゆっくりできる。またゆうきゅんを探す。ゆうきゅんは先輩や上司にお酌して回っていた。ゆうきゅんがんばってるなあ。ゆうきゅんだってまだまだ新入社員っていうイメージが抜けないけど、あんなに成長してるんだな。もともとそうだったのもあるだろうけど。

 はあ。新入社員ゆうきゅんかあ。。。
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