腹黒王子の初恋
「それでは入社4年目の営業課、辻からみなさんへのメッセージです。」
会社紹介のプレゼンテーションが終わり、泰晴が呼ばれマイクの前へと進む。私はパソコンから手を置き、前を見た。背の高くスタイルのいい泰晴が前に出ると学生たちが息を飲むのが聞こえた。本当に目を引く。
「みなさん、はじめまして。入社4年目の辻泰晴です。」
泰晴の太陽のような笑顔にところどころで「うわ」という声が聞こえる。そして学生達の表情が自然と緩んだ。本当に泰晴はこういうのが適任だと思う。圧倒的な存在感と穏やかな空気感。
泰晴はうちの会社を選んだ理由や、仕事内容について、やりがいについて話し、学生達を激励して終わった。学生たちは終始きらきらした目で泰晴を見ている。去年に引き続き簡単に学生達を虜にしている。さすが、泰晴。私はそんな様子を見てひとりふっと笑った。
「続きまして入社1年目の営業、文月よりみなさんへのメッセージです。」
ついにゆうきゅんの順番だ。私が発表するわけじゃないのにドキドキする。ゆうきゅんがんばって。ゆうきゅんは伏し目がちにマイクの前に進んでいく。さらさらの色素の薄い髪が揺れる。
「みなさん、こんにちはー!」
むちゃくちゃ元気に笑顔で挨拶した。学生たちはまたも「うわ」と声が漏れた。だろうだろう!ゆうきゅんはすごいだろう。私は誇らしげにうなずく。
「社内ナンバー2のイケメン文月祐でーす!」
飲み会のノリかというテンションでゆうきゅんが顔の間でVサインをした。会社説明会の雰囲気をぶち壊すおかしなテンションに一瞬静かになる。
「もちろんナンバー1のイケメンは先ほど挨拶した辻先輩です。みなさんは社内ナンバー1とナンバー2に今日会えてお得ですね!」
みんなぽかんと見ている。え?大丈夫なの?これ上がOKだしてるんだよね。
「ってみんな笑ってくれないと!僕が滑ったみたいになるじゃないですか!ちょっと!ちょっと!これ辻先輩が言えって言ったんですからね。先輩この雰囲気どうしてくれるんですか!」
「おい、文月、俺そんなこと言ってねーだろ!」
泰晴の本気の突っ込みに会場がどっと笑いに包まれた。
「よかった。これで辻先輩も滑らずにすみました!」
「俺のせいにするなっての!」
学生たちはクスクス笑っている。
「ということで仕切りなおします!僕は入社1年目の文月祐宇です。辻先輩に毎日教えていただきながら忙しい日々を送っています。
僕はまだ入社して間もないので会社のことをどうにかいえる立場でもないんですが、つい最近までみなさんと同じように就職活動をしていました。1年前までそちらの席に座っていました。ですから、今日はみなさんと同じ目線で少しお話したいと思います。」
学生たちをリラックスさせ心まで掴んだゆうきゅんをほっこりして見つめていると、ちらとゆうきゅんがこっちを向いて微笑んだ。…気がした。
「僕は正直絶対この会社に入りたいという考えはありませんでした。ただ大手の文具会社で小さいころから身近な存在だからちょっと説明会行ってみようかなっていう軽いノリでした。」
少しの沈黙の後ゆうきゅんが泰晴の方を向いた。
「そのとき出会ったのが辻先輩でした。」
学生たちがゆうきゅんと泰晴を交互に見る。みんなが次に来る言葉を待つ。学生たちの熱い視線を見ると私もドキドキしてきた。ゆうきゅんから初めて聞く話。
「今日のように従業員代表として僕たちにメッセージをくれました。辻先輩が仕事について会社について語る姿がすごくかっこよくて光って見えました。僕も先輩のようになりたい、一緒に働きたいと強く思いました。
だから入社できて、運よく辻先輩の下で仕事ができている今がすごく嬉しいです。
でも、やはり学生と仕事は全く違います。」
ゆうきゅんの表情が陰る。
「つい先日、僕は大きなミスをしました。ある文具を大量に発注ミスをしてしまったんです。大量に余った文具。辻先輩は上司にすごく怒られ、部署内は大騒ぎになりました。僕のちょっとした入力ミスでこんな大事になるなんて、体が震え、息もうまく吸えないほと怖くなりました。
でも、それからの上司や先輩たちの行動がすごかったです。取引先に掛け合いその文具を置いてくれるよう頼み、数日の間にあんなに残っていた文具はなくなりました。大損害になる所だったのに逆に売り上げが伸びました。
そんな先輩たちの行動力や団結力、そして取引先との良好な関係を目の当たりにして僕はああ、この会社に入社できてよかった。こんな人たちと一緒に働けてよかったと思いました。」
ゆうきゅんは一息ついて微笑んで言った。
「もちろん、仕事をするこということは楽しいことだけではありません。つらいこともあるし、ちょっとしたミスで会社に大きな迷惑をかけることもあります。でも、僕はそれ以上にやりがいを感じるし、いい仲間に囲まれて幸せだと思います。
みなさんがこれから就職活動を続けていく中で、そう思える会社、社員さん達に会えることを祈っています。それが僕たちの会社だったらより嬉しいですけどね。
それでは、またみなさんと会える時を楽しみにして僕の話を終わります!
みんな、就職活動がんばって、学生生活も思い切り楽しんでね!」
ペコリと頭を下げると大きな拍手が鳴り響いた。私も大きく拍手をした。ヤバい。何だか泣きそう。目をウルウルさせていると甘く微笑むゆうきゅんと目が合った。…ような気がした。イヤ、完全に合った。胸がいっぱいになってなんだかよくわからないい感情が沸き上がって、ポロリと一滴だけ涙が落ちた。最近情緒不安定だ…
会社説明会が終わった。学生達が会場を後にするのを一礼をして見送る。
「かっこよかった!」
「ヤバい~」
「ここで働きたい」
学生たちがちょっと興奮した様子で口々に話している。二人を従業員代表にして正解だったようだ。
こうして、会社説明会は大成功で幕を閉じた。
会社紹介のプレゼンテーションが終わり、泰晴が呼ばれマイクの前へと進む。私はパソコンから手を置き、前を見た。背の高くスタイルのいい泰晴が前に出ると学生たちが息を飲むのが聞こえた。本当に目を引く。
「みなさん、はじめまして。入社4年目の辻泰晴です。」
泰晴の太陽のような笑顔にところどころで「うわ」という声が聞こえる。そして学生達の表情が自然と緩んだ。本当に泰晴はこういうのが適任だと思う。圧倒的な存在感と穏やかな空気感。
泰晴はうちの会社を選んだ理由や、仕事内容について、やりがいについて話し、学生達を激励して終わった。学生たちは終始きらきらした目で泰晴を見ている。去年に引き続き簡単に学生達を虜にしている。さすが、泰晴。私はそんな様子を見てひとりふっと笑った。
「続きまして入社1年目の営業、文月よりみなさんへのメッセージです。」
ついにゆうきゅんの順番だ。私が発表するわけじゃないのにドキドキする。ゆうきゅんがんばって。ゆうきゅんは伏し目がちにマイクの前に進んでいく。さらさらの色素の薄い髪が揺れる。
「みなさん、こんにちはー!」
むちゃくちゃ元気に笑顔で挨拶した。学生たちはまたも「うわ」と声が漏れた。だろうだろう!ゆうきゅんはすごいだろう。私は誇らしげにうなずく。
「社内ナンバー2のイケメン文月祐でーす!」
飲み会のノリかというテンションでゆうきゅんが顔の間でVサインをした。会社説明会の雰囲気をぶち壊すおかしなテンションに一瞬静かになる。
「もちろんナンバー1のイケメンは先ほど挨拶した辻先輩です。みなさんは社内ナンバー1とナンバー2に今日会えてお得ですね!」
みんなぽかんと見ている。え?大丈夫なの?これ上がOKだしてるんだよね。
「ってみんな笑ってくれないと!僕が滑ったみたいになるじゃないですか!ちょっと!ちょっと!これ辻先輩が言えって言ったんですからね。先輩この雰囲気どうしてくれるんですか!」
「おい、文月、俺そんなこと言ってねーだろ!」
泰晴の本気の突っ込みに会場がどっと笑いに包まれた。
「よかった。これで辻先輩も滑らずにすみました!」
「俺のせいにするなっての!」
学生たちはクスクス笑っている。
「ということで仕切りなおします!僕は入社1年目の文月祐宇です。辻先輩に毎日教えていただきながら忙しい日々を送っています。
僕はまだ入社して間もないので会社のことをどうにかいえる立場でもないんですが、つい最近までみなさんと同じように就職活動をしていました。1年前までそちらの席に座っていました。ですから、今日はみなさんと同じ目線で少しお話したいと思います。」
学生たちをリラックスさせ心まで掴んだゆうきゅんをほっこりして見つめていると、ちらとゆうきゅんがこっちを向いて微笑んだ。…気がした。
「僕は正直絶対この会社に入りたいという考えはありませんでした。ただ大手の文具会社で小さいころから身近な存在だからちょっと説明会行ってみようかなっていう軽いノリでした。」
少しの沈黙の後ゆうきゅんが泰晴の方を向いた。
「そのとき出会ったのが辻先輩でした。」
学生たちがゆうきゅんと泰晴を交互に見る。みんなが次に来る言葉を待つ。学生たちの熱い視線を見ると私もドキドキしてきた。ゆうきゅんから初めて聞く話。
「今日のように従業員代表として僕たちにメッセージをくれました。辻先輩が仕事について会社について語る姿がすごくかっこよくて光って見えました。僕も先輩のようになりたい、一緒に働きたいと強く思いました。
だから入社できて、運よく辻先輩の下で仕事ができている今がすごく嬉しいです。
でも、やはり学生と仕事は全く違います。」
ゆうきゅんの表情が陰る。
「つい先日、僕は大きなミスをしました。ある文具を大量に発注ミスをしてしまったんです。大量に余った文具。辻先輩は上司にすごく怒られ、部署内は大騒ぎになりました。僕のちょっとした入力ミスでこんな大事になるなんて、体が震え、息もうまく吸えないほと怖くなりました。
でも、それからの上司や先輩たちの行動がすごかったです。取引先に掛け合いその文具を置いてくれるよう頼み、数日の間にあんなに残っていた文具はなくなりました。大損害になる所だったのに逆に売り上げが伸びました。
そんな先輩たちの行動力や団結力、そして取引先との良好な関係を目の当たりにして僕はああ、この会社に入社できてよかった。こんな人たちと一緒に働けてよかったと思いました。」
ゆうきゅんは一息ついて微笑んで言った。
「もちろん、仕事をするこということは楽しいことだけではありません。つらいこともあるし、ちょっとしたミスで会社に大きな迷惑をかけることもあります。でも、僕はそれ以上にやりがいを感じるし、いい仲間に囲まれて幸せだと思います。
みなさんがこれから就職活動を続けていく中で、そう思える会社、社員さん達に会えることを祈っています。それが僕たちの会社だったらより嬉しいですけどね。
それでは、またみなさんと会える時を楽しみにして僕の話を終わります!
みんな、就職活動がんばって、学生生活も思い切り楽しんでね!」
ペコリと頭を下げると大きな拍手が鳴り響いた。私も大きく拍手をした。ヤバい。何だか泣きそう。目をウルウルさせていると甘く微笑むゆうきゅんと目が合った。…ような気がした。イヤ、完全に合った。胸がいっぱいになってなんだかよくわからないい感情が沸き上がって、ポロリと一滴だけ涙が落ちた。最近情緒不安定だ…
会社説明会が終わった。学生達が会場を後にするのを一礼をして見送る。
「かっこよかった!」
「ヤバい~」
「ここで働きたい」
学生たちがちょっと興奮した様子で口々に話している。二人を従業員代表にして正解だったようだ。
こうして、会社説明会は大成功で幕を閉じた。