晴れた日に降る雨のように
たった5分の駅までの距離を、ほぼ言葉なく歩く。

触れている手だけがやたら熱くて、そこだけに意識が集まってしまう気がした。

祐樹はただ酔った危なっかしい私を、子供のように引率しているだけなのだろう。

それでも初めて、こんなにはっきりと触れた祐樹の手の感触が私に刻まれていく気がした。

また、忘れることができなくなる『出来事』が増えていく。

神様は意地悪だ。

「あき?気持ち悪い?」

知らず知らず俯いて、暗い瞳を落としていたのかもしれない。

いきなり私の顔を覗き込んできた祐樹に、驚いて息が止まる。

「ちょっと休むか……」

独り言のように呟いて祐樹は、駅の前に置かれたベンチへと私を座らせた。

「え?祐樹?」

その行為に驚いて私は声を上げたが、そんなことを気にする様子は祐樹にはない。

終電までもう少しという金曜の駅は、たくさんの人がいろいろな表情で行き来していた。

そんな中、私程複雑な気持ちを抱えながら、この場所にいる人間はいるのだろうか?

「待ってろ。お茶買ってくる」

それだけをゆっくりとした口調で私に言うと、祐樹は雑踏の中へと消えて行った。
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