琥珀の中の一等星
星のノート
 とても良かったお店の雰囲気のままに、ランチはとても美味しかった。サーモンときのこのパスタを選んだのだが、まろやかなクリームに絡み合っていてクリーミー。少しつめたい風も吹くようなこの季節によく合っていた。
 リゲルはランチセットのほかにも、アラカルトをいくつか頼んでいたけれど。
 サイドメニュー。ソーセージの盛り合わせやら、ジャーマンポテトやら。ランチセットだけでは、成人した男性のおなかを満たすことはできないのだろう。
 リゲルの食べっぷりは見ていて気持ちの良いほどだった。がつがつと、ではないが勢いよく次々に平らげていく。それはこの料理を美味しいと思っているからだ、ということがよくわかった。
 リゲルがランチセットに頼んだ、海老とほうれん草のグラタン。あれも美味しそうだった。
 今度、家で作ってみようかしら、とライラは思った。そしてリゲルを招くのだ。そうしたらきっと喜んでくれるだろう。
 海老も少し良いものを選んだらいいかな。オマール海老とか。見た目良く、少し豪華に。
 そう、クリスマスなんかに出せたら。
 考えてしまって、ちょっとやっぱり恥ずかしくなってしまった。
 クリスマスは家族と過ごすというのが、この街の定番。でも若い恋人同士は、二人きりで過ごすのも定番なのだ。
 ライラはまだそういう経験をしたことはなかった。当たり前のように、リゲルとそういうふうに過ごせたらいいなと思ったことはあるけれど。
 今年こそ叶えばいいのに。叶ってしまえばいいのに。
 だから、一歩進みたい。ライラの中で、勇気がほんの少しだけ前進した、ランチタイムだった。
「クレームブリュレ、すっごく美味しかった!」
「ライラ好みだったな。カラメルがカリカリで」
 食事を終えて、店を出た。最後に食べたデザートのクレームブリュレ。あまりに美味しかったので、つい興奮したように話してしまう。
「うん! あれって上手く作るの結構難しいんだよね。あとからあぶらないとだから。だからついついお店で食べることが多くなっちゃうんだけど」
「まぁそうなるよなぁ」
 言いながら、街の中心へ向かっていく。
 ちなみにランチのお金はそれぞれ出し合った。「俺が出すよ」とリゲルは毎回言ってくれて、ライラが小さい頃、ほんとうに小さい頃はそれに甘えていた。
 でも学校で中等科に入ったくらいになってから、一緒にどこかへ飲食をしに入るとしても、「お小遣いから払うよ」と言うようにしている。交際もしていない男のひとから、奢ってもらうばかりにはいかないから。
 そんなライラの発言は「ま、そうだな。自分で払うことも覚えたほうがいいか」なんて受け入れられた。そのあと「大人ぶりたいんだな」なんて、くすっと笑われたけれど。「本当に大人になるんだから!」と、まだもう少し幼かったライラは反論したものだ。
 それには、『ライラのもらっているお小遣いが、それほど少ないものではない』ということも手伝っていたのだけど。父親が、ライラと同年代の娘たちがもらっているような額(学校で友達などにそれとなく聞いて、統計的に知ったのだ)より、少し多めにくれるのだ。
 しかし、甘やかされているわけではない。「無駄遣いをするんじゃないよ。これで、人前に出ても恥ずかしくないような、服や小道具を買ったり、振る舞いをしなさい」なんて理由。
 父親は仕事上、少々プライドが高い。教師というそれなりの立場のある自分の娘が、貧相な格好をすることなど許してくれないのだ。
 お小遣いが多めにもらえるのは嬉しいし、欲しいと思ったものを我慢することが少なくて済むのは有難いけれど。でもちょっと過保護にされているような、贅沢な不満も少しある。
 まぁそんなわけで、リゲルとご飯を共にしても、食事代くらいは出せるのだ。
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