花のようなる愛しいあなた
「もう、何なんだよ!
あのジジイ!!!」
後陽成天皇は相変わらずブチ切れていた。
譲位したいと後陽成天皇が言い始めると必ずごちゃごちゃ言ってくるのが家康だった。
最初は十数年前のことだ。
体調が悪く職を全うできないと思い、譲位しようと思った。
東宮である第一子の良仁(かたひと)親王は当時13歳だった。
若すぎる上に秀吉の圧力で後継に据えなければならなかったという事情があり、正直あまり後継にしたくないと思っていた。
秀吉も死去したし、22歳と年齢的にも人柄的にも相応しい弟の智仁に譲位しようとした。
するとあのジジイは
「他家に入った者を呼び戻すのはおかしいのではないか?」
と言い難癖をつけてきた。
智仁が秀吉の猶子だったことがあったから反対だったんだろう。
東宮を良仁から、家の確執とはあまり関係のない第三子の政仁にしたいと言ったら普通に賛成してきた。
豊臣を排除したいのがありありとし過ぎていて気分の悪い男だ。
しかしあのジジイなくして朝廷が成り立たないのも事実だ。

後継を政仁に認めてもらったから頑張って天皇の職を続けることになってしまったが、やはり気が滅入ることが多くてずっと譲位のタイミングを狙っていた。
しかしその度に「日が悪い」とか
「娘が死んでそれどころじゃないから譲位はやめてくれ」とか、
何かと理由をつけて譲位の邪魔をして来たくせに、
「徳川家の和姫を入内させてもいい」と言うと掌を返したように賛成してきた。
あからさま過ぎて逆に感心する。

しかし、希望する元服と譲位と即位式を同日にやることについては反対して来た。
「やることなすこといちいち文句つけて来やがって…!!!
俺が1日で終わらせると言ったら1日でやるんだよ!」

後陽成天皇と家康の仲が険悪になる中、家康は面倒になったのか、後陽成天皇ではなく幸家に手紙を送ってきた。
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関白右大臣 九条幸家殿

とにかく元服式と譲位式と即位式は分けてください。
主上の説得を頼みます。
くれぐれもお願いします。

家康
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「何て勝手な人なんだ……」
幸家は近衛信伊や板倉勝重などと後陽成天皇の説得に当たる日々を送ることになった。
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