花のようなる愛しいあなた
千姫が暮らしていた江戸城を離れ、豊臣家の秀頼に嫁ぐため、遙か遠い摂津の国の大坂城に出発したのは、6歳の時だった。
乳母の多喜や妹分の松、そして数名の侍従とともにゆっくりと大坂へ向かう。
城の外に出たことがなかった千姫たちにとっては大坂までの一カ月は楽しい旅行みたいな感じだった。
広い田んぼの中やススキ野原の中、山道や海沿いの道。
見たこともない風景が広がっている。
姫だからといってずっと駕籠に乗ってるだけではない。
狭い急峻な道は歩くこともある。
幅の広い川は船に乗ることもある。
ところどころ休みながら、駕籠はゆっくり進んだ。
宿泊は徳川家ゆかりの寺院だったり、近くの城に招かれた。
どこに行ってもすごい歓迎ぶりで、ご馳走もたくさん出てきた。

「ここから見えるところ、ぜーーんぶおじいさまの土地なんですよ」
多喜はいろいろと説明をしてくれる。
「おじいちゃん、すごーい!」
「ここの道路もおじいさまが作ってきれいにしたんですよ」
おじいさまは皆のためにどんどん公共事業を行ってるんですよ」
「よくわかんないけど、すごいね」
何週間か経って、旅にもそろそろ飽きたころ、一行は京都の外れの伏見に到着した。
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