※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。
けれどいざ教室のドアの前に立ち、ドアを開こうとすると微かに足が震えていることに気づいた。
正直やっぱり怖い――けれど、ここで逃げるようなことはしたくない。
たったひとりの私のために、100万人に嫌われることを厭わなかったユキ。
その強さの、ほんの少しでもいいから、私は持てるようになりたい。
「勇気をちょうだい、ユキ」
そっと囁くと、ぐっとお腹の下に力を込め、私は最初の一歩を踏み出した。
教室に足を踏み入れた途端、姿を変えた私を驚きの視線が包み込んだ。
大瀧に刃向かいユキを庇った一件があったからか、だれもが腫れ物に触るように遠巻きに私を見るだけで、変な静寂が教室を覆う。
そんな張りつめた静寂を破ったのは、皮肉にも舞香だった。
自分の席に向かって歩く私を、グループのみんなに囲まれて机に座った舞香が、たった一言で呼び止める。
「ケーキは?」
私はぐっと爪先に力を込め、方向転換して奥に座る舞香の元へ向かう。
その間、片時も目をそらさず私を見つめてくる舞香。
射るみたいに冷たく、常に責められているんじゃないかと思うその眼差しが、私はずっと怖かった。
でも、本音から逃げてばかりじゃいられない。
私は意思と言葉を持って生まれてきたのだから。