※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。


足を止めた私は、震える声で答えた。


「悪いけど、用意してない」

「は?」

「うちのケーキは、食べた人が笑顔になれますようにって愛情を込めてひとつひとつ大切に作っているものなの。だから、無償で渡し続けることはできない」


ぎゅっと拳を握りしめ、それから声をいっそう張りあげた。


「でも、いつもおいしいって言ってくれてありがとう! うちのお父さんのケーキは世界一おいしいから」


言いきった私は、自分の席に戻る。


心臓はまだ、50メートル走を走りきった後のように騒がしい。


だけど、ずっと胸に燻っていて無理やり抑え込んでいた気持ちを伝えることができたからか、これまでにないほど清々しい。

< 173 / 185 >

この作品をシェア

pagetop