※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。
「ただ、ひとつだけ、みんなに話しておかなければいけないことがあります」
不意に、担任の一段階落としたトーンの声が聞こえてきて、意識がなんとなしにそちらに引き戻されていた。
だから、次に続く言葉に、浮かれた私はなんの身構えもしないままだったのだ。
「よく聞いてください。彼は、エンプロイドです」
一瞬、その単語とはるくんを結びつけるのに、時間が掛かった。
────え?
心臓が一気に冷えて、ぎゅーんっと急降下していく感覚を覚えた。
神妙な声音で告げられたその言葉が、不協和音になって耳の奥でこだました。
さっきまであれほど黄色い声に埋め尽くされていた教室が痛いほどの静寂に包まれたのも分かった。
なに……? なんて……?
「人間名はユキくん。本名はKH-0128くんです。これからの時代、エンプロイドを差別したりしてはいけません。みんな、ユキくんに対しても、他のみんなと同じように仲良くしてあげてね」
まるで小学生か、もっと下の子たちに諭すみたいに、先生がなにか言っている。
けれどその声はあまりに現実味がなくて、まるでテレビを介した音のようにも思えた。
担任の横で、はるくん――エンプロイドが睫毛を伏せて、いたたまれないような淡い笑みを唇に滲ませている。
その表情が、なによりも真実を雄弁に語っていた。
そして、セーターの袖口から黒い腕輪がわずかに覗いていることに、今ようやく気づく。
待って待って、と嫌なふうに急かしてくる鼓動に叫ぶ。
そんなこと急に言われたって理解して受け入れろという方が難しい話だ。
心の中で、はるくんへの想いが音を立てて崩れていく。
それはもう修復する余地もないほど、無惨で呆気ないほどに。