※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。





箸をテーブルに置いたその音が、音が絶えないはずのリビングにやけに響いた。


食卓に並ぶのは、おじいちゃんおばあちゃんの家で出てきそうな和食テイストの夕食だ。

ケーキ屋を営んでいるというのに。


出てくるのは、こういう栄養思考の料理ばかり。

学校のみんなにはこんな渋いラインナップは見せられなくて、お弁当は持っていかず、最近のお昼はめっきり購買部で買うパンばかりだ。


自分に取りわけられていた分は、20分も経たないうちにたいらげた。


「ごちそうさま」

「あら、もういいの? おかわりは?」

「大丈夫。お腹いっぱいだから」


なにか言いたげなお母さんが口を開こうとする前に席を立ち、さっさと食器を片付ける。

そしてテレビと子どもの声で賑やかなリビングを出た。


2階にあがって自室に入ると、やっと息をつくことができた。


電気もつけないままベッドに倒れこむと、溜めてしまいがちなスマホのメッセージの返信もほどほどに、SNSのチャットのアイコンを押して起動させる。

これが私にとって欠かせることのできない日課。


『はるくん、こんばんは!』

一言そう打てば。

『こんばんは、ひまわりさん』


時間をおかず、すぐに返事が表示された。


ちょうどあっちもスマホかPCをいじっていたのだろうか。

画面越しでいまいち実態を掴めない彼の存在を近く感じる。

< 2 / 185 >

この作品をシェア

pagetop