※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。
「相手のためなら自分はどうなってもいいって、どういう感情ですか?」
私には理解できなかった。
ユキの、全身全霊をかけた思いが。
だって私は自分が一番大切だから。
するとカーテンの向こうで、香山先生の影がわずかに揺れる。
そして達観したような落ち着き払った声が返ってくる。
「生憎そんな感情を覚えたことはないけど、きっと熱烈な愛の告白なんじゃないか」
「愛……」
私は横向きにごろんと体勢を変える。
……だとしたら馬鹿だ。
そんな熱列に想われても、私が想いを返すことはない。
自分ばかりが傷を請け負う愛なんて、やっぱり私には理解ができない。
ユキの穢れを知らない笑顔を思い返した私は、じゅくじゅくと痛む傷跡に触られたような感覚を覚えた。