※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。






なにかから逃げるように必死に前へ繰り出されていた足がようやく止まったのは、校舎と体育館の間にある渡り廊下に着いた頃だった。


体育が行われていないとこっちに用はないから、人通りのないこのあたりは、ひどく静かだ。


立ち止まるなり膝の力がふっと抜けて、渡り廊下の段差の上に座り込んだ私は、膝を引き寄せるようにしてそこに額を押し当てた。

そして重く肺を苛んでいた空気を、少しずつ吐き出していく。


いろいろな感情がめまぐるしく胸の中で騒いでいた。

教室を覆った悪意が、そして大村さんとユキのやりとりが、心を蝕んでいる。


大村さんは誰かに攻撃したわけでも害を与えたわけでもない。

舞香が差別して、いないものとして振る舞うから、いつの間にかそういう立ち位置になっていたのだ。


そうなるのが怖くて私は趣味のカメラのことを隠しているけれど、時々好きなものを好きだと素直に認め、楽しそうに語らっている彼女たちがキラキラして見えることがある。


まわりの目ばかり気にして、自分自身を偽って生きている私なんかより、ずっと強い。


あの子に――大村さんみたいな子になれたら、どんなにいいだろう。


だけど、一度好きなものを拒絶してしまったら、やっぱり好きだったとそう認めるのは果てしなく難しい。

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