僕の庭
僕はうつむいて考えた。


絵は、描きたくなかった。
絵を描くと、嫌でもびわを思い出す。

僕が絵を描いていると、びわはよく膝に乗ってきていた。
膝に乗って丸まり、欠伸をして眠る。
僕は筆休め代わりに彼の柔らかな毛並みを撫でる。

そんな穏やかな日常が、今はこんなにも思い出すのが辛いのだ。

それに、あの重みがなければもう絵は描けないのではないか、と思う自分もいる。


びわは、こんな情けない僕を心配しているのだろうか。

墓の方、外に目をやると、赤とんぼが飛んでいた。


「……真崎さん。彫刻刀が、欲しいのですが」










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