5分以内で読めるショート・ホラー集
足をペダルから離しても、自転車のスピードははやくなるばかり。
涼しくて、きもちいい。

何人もの人の横を、勢いよく通り過ぎていく。

「あらっ、びっくりした」
「おいおい、気をつけろよ」

町の人たちの声なんて、なんのその。
僕はぐんぐんと駆け下りる。

髪の毛が風に、思い切り逆立つ。

「危ないわよ、やめなさい」
「止まれよ、迷惑だぞ」

みんな、このきもちよさを知らないんだ。
いまにも空に飛び立ちそうな、この感覚。
ぼくだけが感じている、この心地よさ。

くだればくだるほど、町は目まぐるしく移り変わる。ヒュンヒュンと、景色は猛スピードで過ぎ去っていく。


ヒュンヒュンヒュンヒュン


浴びる風の音に混じり、怒った声も聞こえた。
僕に注意しているようだけど、またたく間に通り過ぎていく。坂を駆けおりる。

そろそろ、ふもとも近づいてきた。

けれど、この勢いを止めるつもりはない。なにせ、きもちがいいのだ。
まるで、僕自身が風になっていくかのような。

大通りが、目の前へと差しかかる。


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