不死身の俺を殺してくれ
 優は私が頼ってくれるのをずっと待っていた。最初から意地を張らないで、素直に頼れば良かったんだ。そしたら、こんなに全てが拗れてしまうことも無かったかもしれない。

 自分でも気がつかない内に、意固地になり、周りが見えなくなる程に忘れていたんだ。とても大切なことを。いつの時でも、手を差し伸べてくれるのは、私の大切な親友だということを。
 
「あっ……一つだけ、さくらに、お願いがあるんだけど……いいかな?」

「ん? 何? 何でも聞くよ」

 さくらは自身のロッカーに荷物を仕舞い終え、振り向く。優は目線を下げたまま、何処かぎこちなく応えた。

「実はね、私、近々結婚することになったんだ。……色々あったからずっと、言い出せなくて……もし良かったら、結婚式に来てくれる? ……その、彼氏さんと一緒に」

「本当に!? おめでとう! そっかぁ、優、結婚するんだね……もしかして、寿退社するの?」

「あ、ううん。出来れば、丸十年くらいはしっかり働きたいって思ってるから、予定では結婚しても暫くはここで働くつもり」

 さくらの祝福の言葉に、優は照れながら表情を綻ばせた。

 私の知らない間に、優の人生も大切な節目を迎えようとしている。と、同時に優から報せるタイミングを奪っていた自分に憤りを感じた。私は一体どれだけの間、周りが見えていなかったのだろうと、恥ずかしい程に呆れてしまった。

 自身の人生について、しっかりと未来を見据えている優の姿は、さくらの瞳に眩しいくらいに、きらきらと輝いて見えていた。

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