不死身の俺を殺してくれ
 どうか、八重樫くんにも次の幸せが訪れるようにと、優からのささやかな幸せのおすそ分けということらしい。

 煉は花束を持った八重樫をじっと眺めていたが、やがて何かの結論に至ったのか、確認をするようにさくらに疑問を投げ掛けた。

「……もしかして、お前は知ってたのか」

「うん。実は優から聞かされてた」

 つまるところ、八重樫が玉砕していたことを優も知っていた。おっとりとしているようで実は観察眼の鋭い彼女に、やはり誤魔化しは効かなかったのだ。

 自身の結婚式にブーケトスが組み込まれていることを思い出した優は、本来ならば女性に送る花束を八重樫へと送ることを考えた。

 さくらが、その作戦を聞かされたのは結婚式二日前のことだった。良いとも悪いとも言えず、結局は当日の様子を見守ることになったのだ。

 『ブーケ似合ってるよ』という女性達からの声に、八重樫は戸惑いながらも苦笑している。

 花束を手にした八重樫の姿は、まさに王子様然としていて女性達の言う通り、とてもよく似合っていた。

「さくら」

「ん? なに?」

 名前を呼ばれて視線を移すと、煉はさくらを見下ろしていて、自然とお互いに見つめ合う形になった。

 幸せが無限に溢れている結婚式の熱に浮かされたのか、煉は周りの目を気にすることもなく、さくらの華奢な両手に触れて、包み込む。
 
 煉は目線を逸らすことなく、一呼吸置いた後、決意の言葉をさくらへ向けて、ゆっくりと紡ぎ始めた。
 
「……俺はまだ、さくらを養える程の力は無い。だが、いつか。修行を終えて料理に対する知識を深めた時、自分の店を出したいと思っている。

 そして、その時。

 俺の隣にいるのはお前……さくらで在って欲しいと願っている。……だから、これからも俺と共に日々を過ごしてくれないか。不死身だった俺に、新たな人生を与えてくれたお前に、恩返しがしたいんだ」

 さくらは煉の突然の告白に驚き、目を見張った。

「煉は、これからも私と一緒にいてくれるの? お酒が大好きで、料理が苦手で……女子力なんてないのに……?」

「さくらはさくらのままでいい。無理をして変わる必要はない。……そもそも女子力とは何だ?」

 至極真面目な顔で、女子力について問いを重ねてくる煉に、さくらは愛しげな笑みが溢れる。

 そうだった。最初から煉はこんな人だった。嘘をつくような人じゃない、お世辞を言えるような人じゃないことくらい、半年以上一緒に日々を過ごしてきた私が、一番よく分かっている。

「……ふふ。ありがとう、煉」

「何故笑う。俺は真面目に言っているんだが」

「うん。知ってる。……私もどんな煉も好きよ。大好き。だから、これからも宜しくお願いします」

「ああ、こちらこそ宜しく頼む」

 秋晴れの下、二人は屈託のない笑顔で幸せを分かち合っていた。

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