不死身の俺を殺してくれ
──三年後の初春。
ソメイヨシノが咲き誇る日本の何処か。
「お母さん、お腹すいたー。ここで、ご飯食べようよ」
「はいはい。急がなくても、お店は逃げていかないわよ」
小学生くらいの女の子を連れた母親が、食事処──桜木の煉羊羮の店の引き戸を開ける。
店内にいた和服姿の女性店員が、がらがらという戸が開かれる音に反応して振り向き、入り口へ駆けた。
「いらっしゃいませ。二名様ですか? では、こちらへ、どうぞ」
「……いらっしゃい」
女性店員と同じく、和装に身を包んだ大柄な男性が、厨房の入り口に掛けられている暖簾を手で上げて、挨拶と共に顔を表へ出した。
店内をキョロキョロと見渡していた女の子は、顔を出している男性をちらりと見上げる。煉の顔をじっと見つめた後、突然に大きな声を上げて、彼を指差した。
「…………あっ! 小梅《こうめ》、この人しってる! お母さん、この人、私を助けてくれた、あの時のお兄さんだよ!」
「え? 小梅、何言ってるの。人違いじゃないの? すみません。娘が勘違いをして……」
「ほんとうだもんっ! うそじゃないもんっ!! お兄さん、あのとき公園にいた人だよね?」
母親が慌てて娘の言動を制止しようとするも、少女は断固として意見を譲る気配はない。
厨房担当とおぼしき男性は、暖簾を掻き分けた隙間から少女を無言で見下ろしていた。眉間に深くしわを寄せて、暫しの間、黙考していたかと思うと、やがて小さく声を上げた。
「ん? ……お前は、もしや、あの時の子か。トラックに轢かれそうになっていた……」
「うん、そうだよっ! あの時は助けてくれてありがとう! お兄さん」
少女は嬉しそうに、身体を大きく左右に揺らしながら破顔する。
「そうか……。大きくなったな。無事で良かった」
「煉、どういうこと? 知り合いなの?」
女性店員のさくらは、訝しげに亭主の煉を一瞥する。
「この子は俺が三年前に、トラックに轢かれそうになっていたところを助けた子だ。いつだったか、俺がぼろぼろになって帰ってきた時があっただろう?」
煉は厨房を抜けて、少女の傍へと歩み寄り、目線を合わせる為に屈む。さくらは親子を席へ案内することも忘れて、その場で約三年前の記憶を探っていた。