冷徹部長の溺愛の餌食になりました
すると次の瞬間、馳くんは突然近づき、正面から私を抱きしめた。
「えっ……馳、くん?」
あまりに突然のその行動に、驚き身を固くした私に、彼の腕はぎゅっと力を込める。
「そんなつらい顔するくらいなら、俺にすれば?」
「え……?」
「お前の彼氏がどこの誰かなんて知らないけど、そいつよりあかねのこと幸せにする自信あるくらい、好きだよ」
彼より、私を幸せにしてくれる。
弱っている心に、その言葉はじんわりと甘く沁みる。
『幸せにする』も『好きだよ』も、言われたいと望んでいた言葉。
その言葉を発するのにも勇気がいると知っている。
だけどそれでも、彼の言葉はこの胸には響かない。
むしろ、この腕が久我さんだったら。
そう言ってくれるのが久我さんだったら、なんてまた彼の姿ばかりが胸に込み上げる。
こうしてまた、やっぱり彼しか見えないと思い知るんだ。
「……ありがとう。でも、ごめん」
腕の中でぼそっと呟くと、それを聞きたくないというように馳くんは腕に力を込める。
「答え出すの早すぎだろ。もう少し考えろよ」
「でも私、やっぱり……その人のことしか、見えないから」
抱きしめる腕にもぬくもりにも、思い出すのは久我さんのことばかり。
彼が小宮山さんのことが好きでも、ふたりがこの先結ばれたとしても。
想いは簡単には捨てられない。
久我さんのことが、好き。