real face
そして主任が黙ってしまった事に遅れて気付いて、伏せていた顔を上げてみると、そこには………。

多分、私以上に赤くなった顔の主任が、ポカンとして私を見つめていた。

ちょ、自分でやっておいて、しかも『してやったり』とでも言いたげだったくせに。

「主任、大丈夫ですか?」

ハッと我に返った主任が、コホンと咳払いして言った。

「蘭さん、明日の予定は?」

明日は土曜日だから仕事は休み。

「明日は、なつみん……経理部の有田さんと会う約束をしてます」

「先約アリか。そいつは残念だな」

本当に?
大して残念そうでもないように聞こえるんだけど。

「あ、主任!私、日曜日だったら空いてますが?」

つい言ってしまったけど、私から誘ってるよねこれって。
主任をデートに誘うなんて、大胆なことしちゃったかな?
でも付き合ってるんだから、いいよね………?

「日曜日はちょっと法事の予定が入ってる。ごめんな」

「あ、いいえ。それじゃ、帰りますね」

本当はもっと話していたかったけど、ここでずっと立ち話している訳にもいかない。

「明日は有田さんとデート楽しんで。じゃ、お疲れ」

主任は明日、どうやって過ごすんだろう。
2人の予定がかみ合わなかったことが、ちょっと、いや、かなり残念だと感じている私。
『楽しんできて』って言ってもらったんだもの、明日はなつみんと楽しい時間を過ごそう。

「ありがとうございます。お疲れさまでした。……おやすみなさい」

「おやすみ」

ここでどちらともなく絡ませていた指をほどき、手を離した。
繋いだ手は離れてしまっても、想いだけは繋がっていたい。

私だけなのかな。
それとも主任も同じように想ってくれている?

そんなことを思って、エントランスに入る直前で振り返ってみると、主任がまだ私を見送ってくれていた。
さっきまでの主任の温もりが残る右手を軽く振ってみると、左手を同じように振り返してくれた主任。
明日と明後日は会えないんだ……。
早く月曜日にならないかな、なんて。
いつもなら憂鬱になりがちな月曜日を待ちわびているなんて、そんな自分に驚きながら、自宅へと向かった。

< 107 / 202 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop