real face

Near miss  ※佐伯翔真視点

「すみません佐伯主任。こんなことになってしまって……」

助手席の有田さんが恐縮して頭を下げた。

「べつにいいよ。どうせ会社に戻るんだし問題ない」

社用車でなく俺の車だからなのか、乗るのを躊躇っていた有田さん。
今日は急に実家に呼び出され、早退の許可を取ってるから、会社には戻らず直帰の予定だったが仕方ない。
有田さんと荷物を降ろしたらそのまま実家に向かうことにしよう。

なぜ俺が有田さんを助手席に乗せているのかというと、後部座席には何故か大量のメロンが積まれているから……。
いや、それもあるけど、そういうことじゃなくて。
蘭会計事務所にちょっとした用事で出向き、さっさと帰るはずが何故か時間を取られ、たまたま届け物をしに来た有田さんを会社まで乗せて帰ることになった。

「でも私、所長とニアミスだったらしくて。霧島さんが慌てて私を隠すのがおかしかったです」

有田さんが呼ばれたのは、霧島さんが経理に渡した書類の中に蘭事務所の機密文書が紛れていたらしく、所長にバレないように回収するためらしい。
それなら呼びつけずお前が取りに来いよ、と言いたいところだが、所長に感づかれるわけにいかないのでやむを得なかったとのこと。
俺はたまたまその場に居たから仕方ないが、他言無用と念を押された。
有田さんが蘭事務所に行ったことも内密にという徹底ぶり。
お騒がせな上に自分勝手極まりないな……霧島美生。

「宮本課長にも、蘭さんにも言えないのって辛いですけど、仕方ないですよね……」

「まあ、見られてなければ黙ってて大丈夫。なるべく事を荒立てたくないし。悪いことしてるんじゃないから気にしないことだ」

「でも、佐伯主任は平気ですか?」

「何が?」

「いえあの、一弥さんとの"協定"とか。不満があるんじゃないかと思ったんですけど」

ああ、あれか。

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