real face
「BBQか、何年振りだろうな。そう言えば"秘境渓谷"って行ったことないけど、蘭さんは知ってるんだって?」

"秘境渓谷"……多分あの場所のことだろう。

「子供の頃、蘭家と宮本家で行った場所だと思います。私が小学生になる前なんで、かなり昔ですけど」

そう、あれは私が5歳、イチにぃが高1、シュウにぃが小5、だったと思う。
私が高所恐怖症になった原因となった場所、なんだ。



──8月6日。

梅雨明けして、夏真っ盛りという感じの入道雲が眩しく輝いている空。
まさにBBQ日和と言えるのだろう。
まだ心に靄がかかったままの私は、今日という日を楽しむことが出来るのだろうか。

いろいろ考えながら準備をしていたら、メイクが濃くなってしまったけど。
日焼け対策のためだもん、これでいい。
バッチリしっかりメイクだと、見せたくない嫉妬や疑念まで隠してくれるようで少しは気が楽だし。
佐伯主任にはあまり歓迎されないだろうけど。
なつみんとのことを私に隠している主任に対するささやかな抵抗、でもあった。
私のメイクにうるさすぎる新も今日はいないから、大丈夫だ。

「あかり、本当に行かないの?イチにぃとなつみんもいるのに。行ったら楽しいよ!あ、シュウにぃもいるし」

ごめん、シュウにぃ。
誘ってくれた張本人なのに、付け足すように言って。

「今日はお母さんとお出かけするから行かないよ~」

つれないなぁ、あかり。
あかりがいてくれたら気が紛れそうだと思うのに。

「夏はBBQって相場が決まっているのに?」

「だってアラにぃとマコにぃもいないし、主任さんとおねぇの邪魔しても悪いし」

双子はいま、学校の宿泊施設で合宿中。
吉田先生がクラス行事として1週間、面倒見てくれるらしい。
今週の水曜日から行ってるから、帰ってくるのは3日後かな。

合宿中にBBQなんて、ガッカリするだろうと思ったけど、自分たちもやるからいいんだって笑っていた。
吉田先生の"実験体験クラブ"は人気がなさそうだけど、クラスの団結力は強いんだとか。
あの2人が1週間も家を空けてるなんて変な感じだけど、滅多にない女だけの我が家も新鮮だ。

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