real face

平和主義  ※宮本一弥視点

──木曜日。

部長との外出から戻った翔の様子が、ちょっと変だ。
机の上の種類の束をパラパラと見ていたかと思ったら、ピタッと動きを止めてフリーズ状態……。

「嘘だろ」

聞き取れないくらいの微かな呟きだったから、本人も口に出してる自覚はなさそうだ。
あれは、まひろが机にかじりついて作成していた資料だろう。
なんか、問題あったのか?
その割には焦っていたり怒っていたりという感じじゃないけど。

「宮本課長、これから飲みに行きませんか?」

突然、俺を誘ってきた。
滅多にない翔からの誘いだけど、今日はダメなんだよ。

「悪い!今日は先約ありだ。せっかく誘ってくれたのにな。なんか話でもあるのか?」

「いえ、それならいいです」

そう言うと、自分のデスクで書類に目を通し始めた。

「佐伯、また今度な。お疲れさん」

「お疲れさまでした、宮本課長」

書類から目を離さないままの翔。
明日になったらまた一波乱あるんじゃないだろうな?
まだ異動して間もないんだから、揉め事は勘弁だぜ。
そう、だって俺は自他ともに認める"平和主義者"だからな。

それにしても、翔から誘ってきたくらいだからもう既にスイッチ入ってたんじゃないのか?
しまったな……。
こないだの歓送迎会といい今日といい、翔の"本音スイッチ"を続けざまに見逃してしまうとはな。
よっぽど今日の約束をキャンセルして翔と飲みに行きたい衝動に駆られたが、やっぱりそれは出来ない。
ある意味、勝負をかけているんだから……。
チャンスは突然訪れた。

──昼休み。

シャ食に行くのが遅くなってしまい、あまりの混雑にうんざりしながら空席を探していたとき。
まひろが誰かと談笑しながら食事しているのが目に入った。



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